この秋は銅版画と「ことば」による展覧会を開催します。浜口陽三の銅版画はさくらんぼや毛糸など身近な静物をモチーフとし、二〇世紀後半にはフランスをはじめ多くの国で高い評価を受けました。さりげなく静かで深い佇まいの作品は、言葉や文化の違いを越えて広く感銘を与えてくれます。ここに浜口作品と並べて紹介する「ことば」は、詩、短歌、俳句、落語、伝承あそびなど様々です。「ことば」によって作品が明るく輝いたり、モチーフがつぶやき始めたりと表情の変化する浜口作品が、見どころです。絵と「ことば」が醸し出す世界を存分にご鑑賞ください。自分ならどんな「ことば」を添えたいか、ご自身の展示空間を空想しながらご覧いただければ幸いです。多くの詩人たちとお仕事をされてきた編集者の金井ゆり子氏に遊びゴコロ満載で選んでいただいた、銅版画五十点、「ことば」三十点の構成です。
一抹の寂しさと、どこか懐かしさもあわせもつ独特の銅版画世界を作り出す南桂子(1911–2004)の展覧会です。樹は立ち並び、鳥や少女がたたずみ、果てしなく広がる空。その画面世界の住人たちは、見る人を誘うでもなく、拒むでもなく、ただそこにいるだけ。ある種の無関心さが、かえって私たちを安心させてくれるのかもしれません。本展では南桂子の銅版画と初期の油彩、約40点とともに、南が画家として歩み始めた頃の友人で、生涯を通して交流のあった、小川イチ(1922–)の油彩、約15点を展示いたします。海を隔てても、画家として、友人として、二人の心の交流は続きました。その二人の作品を半世紀近くの時を経た今、同じ空間に展示いたします。それぞれの表現方法で、たゆむことなく憧れや心のよりどころを描き通した、二人の女性画家の凛とした姿勢を、作品を通してご鑑賞いただけたら幸いです。浜口陽三の銅版画約15点も併せて展示いたします。
浜口陽三(1909-2000)は20世紀を代表する銅版画家の一人です。戦後、本格的に銅版画に取り組み、独学でメゾチント技法を探求していきます。そして、フランス語ではマニエル・ノワールと呼ばれ「黒の技法」を意味するこの技法に豊かな色彩を取り入れた、唯一無二の作家です。本展覧会では赤と黒が印象的な「14のさくらんぼ」や「西瓜」をはじめ、色彩の魅力を味わえる作品、約60点を展示いたします。複雑に重なり合いニュアンスをもった色彩を、ゆっくりと目でご堪能ください。見るほどに違った味わいが見つかることでしょう。
人物ポートレートやライフワーク「花」をはじめ、独特の叙情的作風で写真界の第一線で活躍した秋山庄太郎(1920‒2003)。同氏は40歳の年、順風満帆だった仕事を整理し、ヨーロッパ外遊に出かける決意をします。そして1960年2月からの4ヵ月間、行く先々で風景や芸術家の肖像などをフィルムにおさめました。美しきものを写しとめる、という独自の美学に基づいた写真には一瞬のドラマがあり、被写体も風も光もまるでその1シーンのために存在するかのようです。
本展では、秋山庄太郎写真芸術館の全面的な協力を得て、残されたフィルムから、パリやヴェネチアの写真、資料など50点ほどを紹介いたします(前後期で展示替)。多くが初公開です。浜口陽三の銅版画については、秋山氏が所蔵していた中より特にお気に入りだったという「4つのさくらんぼ」を含む3点と、ヴェネチア・ビエンナーレ出品作を中心に約30点を展示いたします。
南桂子の作品には、森や木々が繰り返し登場します。レースのような線でつづられた森、はしご状の林、音符のように実ったさくらんぼ。このような抽象を交えた形の面白さに加え、銅版画ならではの丹念な手仕事による淡い光の表現も、作品の魅力のひとつです。その光に包まれて森の情景に不思議な奥行きが生まれ、物語世界がはじまります。この展覧会は、その森の小さな葉っぱや小鳥たちが主人公です。繊細な情景の中をこころゆくまで散策し、ささやかなモチーフから物語を想像しながらご覧ください。南桂子の銅版画約50点と併せて、浜口陽三の銅版画約10点を展示します。
浜口陽三・丹阿弥丹波子の銅版画作品を、画家・詩人の大岡亜紀の詩と共に鑑賞する展覧会です。二人は表現の方向性は異なりながらも、同じ技法を用いて澄んだ境地を得た銅版画家です。銅を刻むひたむきな作業から、偽りのない光や命を生みだします。果物や花はスケッチではなく、時を重ねて生み出す心のかたち、結晶です。本展では、丹阿弥丹波子作品に貫かれる強い力を、大岡亜紀が詩に歌いあげます。
「メゾチントの巨匠」と呼ばれた浜口陽三(1909-2000)は、生涯でおよそ200点にのぼる版画を制作しました。長らくパリで制作していた浜口の作品は、今なおモダンで美しく、その卓越したセンスに驚かされます。当時廃れていた銅版画メゾチント技法を独自に探求し、“目立て”に始まる手間のかかる作業を、気の遠くなるような精度、細やかさで重ねる事ができた、浜口ならではの表現と言えるでしょう。本展では、浜口の初めてのカラーメゾチント作品『うさぎ』の他、約60点を展示いたします。
20世紀半ばに世界的に活躍した芸術家・浜口陽三と、現代作家11人の展覧会です。
この国際メゾチント展は、3年前にスタートした作家主導の巡回展で、国内では作品のほとんどが初公開です。夢、風景、抽象理念など、様々なテーマを深い色味と肌合いで表現し、まるで扉をひとつくぐり抜けて、奥の世界へといざなわれるようです。メゾチントに色彩を持ち込んだ開拓者、浜口陽三の作品と共に、現代の先鋭のメゾチントを8カ国12名約60点で構成します。
●出品作家(出身国/居住国)
范敏(中国)浜西勝則(日本)ヤロスワフ・イェンドゥジェヨフスキ(ポーランド)黒柳正孝(日本)クリストファー・ノヴィツキ(アメリカ/ポーランド)ユリス・ペトラッシュケヴィチュース(ラトビア)アンッティ・ラタラハティ(フィンランド)グンタース・シェティンシュ(ラトビア)アド・ステインマン(オランダ)ユッカ・ヴァンッティネン(フィンランド/スウェーデン)マイラ・ゼネリ(アルバニア/ドイツ)
浜口 陽三 (日本/フランスとアメリカ)
いつかどこかで見たような、なつかしくて不思議な風景――。
銅版画家、南桂子(1911-2004)の展覧会です。
本展では3 月に筑摩書房より出版される『船の旅 詩と童話と銅版画 南桂子の世界』に掲載された作品を中心に展示します。銅版画約50 点をはじめ、初公開のペン画を含む小作品、スケッチブックに残されたユニークなドローイングの数々も紹介します。洗練された銅版画と共に、創造の源泉にある南桂子の豊かな感性を発見してください。
●出品作家(50音順)
ヴォルス / エゴン・シーレ / オディロン・ルドン / 加納光於 / 川田喜久治 / 北川健次 / 駒井哲郎 / 斉藤義重 / ジャン・フォートリエ / ジョルジュ・ルオー / デイヴィッド・ホックニー / ドナルド・サルタン / 長谷川潔 / 浜口陽三 / フリードリヒ・メクセペル
メチエとは、フランス語で、「経験によって培われた熟練の技」転じて「画家や文筆家がもつ、独自の表現技巧や流儀」を意味するようになりました。
戦後、銅版画は新しい現代芸術として注目され、既存の美術にはない傑作が次々と生み出されました。本展では、そのパイオニア達の代表作を集め、揺るぎない魅力を紹介します。「絶対のメチエ」は、銅版画の探求者達が真摯に追い求めた個々人の技法や作風を表しました。