ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションでは、カラーメゾチントという銅版画の新しい技法を開拓した浜口陽三の世界を支柱として、銅版画表現の源流から未来への可能性を探る「銅版画の地平」という企画展シリーズを展開しています。 銅版画表現は、1980年代以降大きな変貌をみせ、新たな概念の表出と表現の拡大が行われています。シリーズ3回目の今回は、その現代銅版画界を先駆する森野眞弓・海老塚耕一・青木野枝・高浜利也・井出創太郎の作品を浜口陽三のカラーメゾチント作品とともにご紹介する特別企画展を開催します。 森野眞弓(1941年生)は緻密な銅版画で、モチーフに不在の気配を託した表現をしながら、近年はフェルトを焼き焦がして制作するヒートグラフで物質とのかかわりを意欲的に探っています。海老塚耕一(1951年生)は、銅版・木・鉄の素材で作品を人と繋げる装置として明晰な空間をつくり出し、メゾチント作品では詩的な広がりを生み出しています。青木野枝(1958年生)は、彫刻家として鉄と向きあう一方で、銅版に刻む線と鮮やかな色彩によって、鉄の質量を異空間の軽やかな立体として銅版画に表現しています。 高浜利也(1966年生)は、ダイナミックな黒の構図で銅版の独特のマチエールと抽象的な空間を制作の出発点に、国内外の活動を通して都市、社会、居住といった作品の主題を移行させ、新たな銅版画表現を試みています。井出創太郎(1966年生)は、銅版が酸によって腐食する生成の時間と家屋の辿ってきた時の流れを、雁皮刷りの襖という作品で共存させ、繊細な対話を行っています。 浜口陽三は、自己表現を銅版画に求めてきましたが、結実した作品は従来認識されていた銅版画の物質性や造形の枠に固執しない、自由に独自の魅力を持った世界をつくりました。今回出品する5氏には、浜口陽三の世界と交差するものを感じさせます。 浜口陽三の銅版画作品20点と5作家の銅版画及び立体作品50点の合わせて70点余で構成する本展覧会は現代銅版画の動向をうかがい、銅版画の新たなみち路を探る好機となるでしょう。
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