イベント情報 | |
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出演 | 奥村綱雄、小出由紀子(インディペンデントキュレーター) |
日時 | 2017年6月25日(土) |
定員 | 30名ほど |
参加費 | 入館料+300円 |
6月25日(土)、本展出品作家である奥村綱雄氏とインディペンデントキュレーターの小出由紀子氏をお招きしギャラリートークを開催しました。その一部を紹介いたします。
1「夜警の刺繍」との出会い (小出)最初に「夜警の刺繍」と出会ったのは、2009年に東京都庭園美術館で開催された「ステッチ・バイ・ステッチ 針と糸で描く私」という展覧会でしたが、あれは刺繍の作品というより、インスタレーション作品でしたね? (奥村)私はそのつもりでした。 (小出)そのインスタレーションは三つの要素からなっていました。一つ目が今(スクリーンで)御覧いただいているポートレートになります。すぐには分からないのですが、どうやら駐車場の脇にある警備員の詰所で、ガードマンらしい人が何かを手にして夢中になっているというポートレートです。その時に、ぱっと思い浮かんだのがアメリカ人で自撮りポートレート作品を発表しているシンディ・シャーマンでした。二つ目の要素には「用具」というタイトルがついていて、刺繍の道具と、警備員の制服が一緒に丁寧に畳んで展示してありました。ああ日本にもこういう硬質なコンセプチュアル・アートをやっている人がいるんだなと、はじめて気が付いた次第でした。 (奥村)そうですね。 (小出)自分を表現したいということも感じられず、それよりも何か自分のエゴみたいなものを封じ込めるというか、隠そうというベクトルを私は感じました。そこが違和感の原因だったかと思います。 |
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2刺繍について (小出)奥村さんは「夜警の刺繍」をはじめる前に、刺繍を何か触ったことはあったんですか? (奥村)小さい頃は母親が裁縫道具を持っていましたから、それに触ったことはあったでしょうが、縫物をした記憶はなくて。中学校の頃に、校舎で履くビニールのサンダルがあるんですけれども、それってよく破れて割けてしまって。それを直すのが得意で、「奥村君が縫うとすごくきれいだ」と言われてすごくうれしかった覚えがあります。それが一番最古の針を使った記憶。(笑)ただ刺繍枠というのは本当に「夜警の刺繍」というタイトルを思いついてから、新宿のオカダヤに行って買いに行った記憶がありますね。 (小出)この抽象的な刺繍というのは、最初から決めていたのですか? (奥村)最初の最初は、ちょっとテスト期間というのがあったような気がします。具象的な、顔とか、文字を縫ったこともあるかな、日記を縫おうとか。ただ何となく、すぐこう落ち着いた。毎回仕上がる度に違うことをしようかなと思うんですけど、毎回これになってしまいます。 (小出)具象的なイメージを縫ってみようとか、思うことはありますか? (奥村)そうですね、一面のお花畑とか。(スライド)これも(見方によっては)お花畑と言えなくもない。もう少し花弁を付けてみようかなとか、図柄とか、そういうのはあります。 (小出)でも実際には一つも出来上ってはいない? (奥村)そうですね。というか、もっと細かくもっと細かくとなってくると、図柄ではなくなってしまうというのがある。何となく今お日様みたいなものが見えていますが、なるべくなら消したいという方向になって、フラットならフラットの方が嬉しい。 |
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3警備員の仕事について (小出)夜のビルがどうなっているのか、私たちには分からないことなのですけれども、平均的な夜の警備員の仕事はどんな感じなのでしょうか。 (奥村)平均的というのはなんですけれども、神田で働いていた時の話でいうと、夕方5時に出勤して打ち合わせして、今のビルの状態を確認した上で、鍵の受け渡しをします。まだ夕方ですから業者さんの出入りがあったり、掃除の人が来て鍵を渡したり、落ち着くのがやっと夜の8時か9時です。そこからとりあえず外回りを回って、ちょっとご飯を食べて刺繍をしてという感じで12時。12時から本格的に巡回をします。館内の上から下まで、トイレまで全部見ながら、電気を消したり、ドアを閉めたりして帰ってきて、1時頃からご飯を食べてそこからまた刺繍です。元気があればそのまま起きていて、清掃員さんが来るのが6時ぐらいと。でそのあたりまでは刺繍の作業が出来ます。 (小出)つまり一回の勤務で、何時間くらい? (奥村)刺繍ですか、トラブルなくて平和な日で、作業時間としては6時間くらいですかね。夜勤で。 (小出)奥村さんは刺繍しているけれど、他の警備員さんはその時間は何をしているのですか? (奥村)分かりません。休んでいるか、資格試験の勉強をしている人もいるし。小説を書いている人もそういえばいましたね。 (小出)結果として20年以上このシリーズは続いているんですよね。 (奥村)1995年くらいからの作業ですから、やっていない期間というのもあります。2009年ぐらいから割とずっとやっているかしら、という感じです。 (小出)タブローとしては、何枚作りました? (奥村)15です。 (小出)20年以上やっているとして、一点に一年以上かかっています。 (奥村)計算するとそうなります。アシスタントを使えばもっと早いか。あまりそういう発想が最初から出てこなかったですね。 (小出)作業は大変じゃないですか? (奥村)そうですね、でも油絵は何年も描いていると、当然何年も前の絵は(塗りつぶされて)画面の下にいって見えなくなるじゃないですか?それに比べると、やったことは全部見えてますから、何やってるんだろうなという感じはしない。油彩で苦しんでいる時の感じは全然ないです。 4作品の魅力 (小出)もう少し私が「夜警の刺繍」に感じることをお話させていただくと、相対するものが同時に存在することがすごく魅力だと思っています。 (奥村)今日のために書いていただいたレジュメの中で、「考える人・奥村さんが、コンセプチュアル・アートとして漕ぎ出したボートが、深夜に転覆。」深夜に転覆、ここがとても気に入りまして。なんかかわいくて。転覆しているのか俺は?と。 (小出)そう、夜が明けたら奥村さんは無人島に流れ着いている。これで奥村さんがめげているのかと思いきや、全然めげていなくて、その無人島の浜辺で、次は何をしようかとアイデアを練っているというのが、私の奥村さんのポートレートですね。 |