★１

桑原）
これは覗く作品です。スコープの中は全部立体で作ってあります。私は秘密が好きなので、見えない裏側に絵が描いたり、何重にも隠したりしています。理科実験的なものが好きで、工具を作ったり、それから組み立てるための装置を作らないといけないですね。椅子一個作るのも、組み立てるための装置を作ってからじゃないと。そういうものをいちいち作っています。ネジも全部作っています。プラスネジが嫌いなので、旋盤で形を作って、メッキして、マイナスネジを作ったりしています。（略）

前田）
大変なこだわりを感じます。桑原さんも高島さんも年齢が近いですよね。僕達は、ブリキのおもちゃで遊んでいた最後の世代かもしれませんが、幼少期の頃の体験は、今のお仕事にかなり密接に結びついておられますか？

桑原）そうですね。新聞紙でゴジラを作ったり。プラモデルの鉄人28号を買って、見てる間に動かしたくなって、自分でゼンマイ入れて、動くようにしたり。

スコープの中は立体で、なるべくリアルにしようと思っています。アンティークショップで椅子を買い、傷がついたままの状態を物差しで計って、それを100分の1で再現します。瑕が0．3ミリなら0.3ミリまで削ります。僕がつくってないのはこのレンズだけです。

前田）
なんでプラスのネジが嫌いなんですか。

桑原）
やっぱりね。美しいですよね。

矢内）
「覗く」ということでどんどん興味をそそられて、自分が積極的に開示していくという効果があると思うのですが、桑原さんの作品は一切過激さがなくて、ノスタルジーというか繊細さと優しさというか癒しを感じるんですけれど、やはりそういう世界を求めていらっしゃるのかなと感じます。

★２

前田）
僕自身が子供のときから、チクチクと絵を描いては、チクチクと工作をするから、まあ工作少年がそのまま大人になったみたいな感じなんですけれども（笑）これらの立体作品は、「小さな動く彫刻」と呼んでいます。
それぞれ微妙な仕掛けがあって、この作品はコロコロ転がってピエロがでんぐり返しするんです。この作品は飛行機が回ります。

桑原）
一番気になるのは素材ですね。なにかやってるなって。真新しいものがない。すごく面白いですよね。絵を描いている方がやってる仕事だなと僕は思いました。

前田）
なんか出来上がりでピカピカなのは落ち着かなくて、せっかく一生懸命今日もまた塗って全部剥がすとかね。時間の中に過ごしたものというのはね、それだけの何か意味はあるので。桑原さんがおっしゃったように、いろんなことをやっています（笑）

高島）
私も素材に興味があるのですけど、この針金の芯はバネを使っていますか？

前田）
売っている綺麗なバネできれいな螺旋はできるんですけど、残念ながらその僕のイメージとちょっとちがうものになってしまいます。

高島）
回転の仕方がありますもんね。

前田）
そうそう。二重螺旋ですけど、この螺旋も0.3㎜のワイヤーを0.5㎜のピアノ線に巻き付けて作ります。そのあたりはやはり創作というかね。この動きに繋がってるので、こだわりとちょっとでもいいものを作りたい執着心があります。

高島）
パっと見ただけではやってみただけでは分からないですよね

前田）
そうですね。作っている本人しかわからない。

高島）
でもそういう細かい違いがあるから、回転の仕方が変わってくる。

前田）
この支柱もね、削りだしながら形をつくるんですけど、そういう何かちょっとしたこだわりなんだけど全然違うんです。

矢内）
絵画の方は私にとって聖というか、前田さんの理想の世界みたいな感じなんですね。それでこちらの動く彫刻の方は、俗世といいますか、生きることにすごく近い、生きるそのものみたいな感じで、絵画の方はそれを超えた何かの理想の輝かしい世界のように感じてしまうんですね。勝手な感じ方で恐縮ですけれども。
それを組み合わせていくというのが、前田さんの、やはり今までやってこられた、前田ワールドと私は思っていて、前田さんの一つの創作の様式なので、これからも大事にしていただきたいなと思いました。

前田）
絵を描くときは、結構葛藤を求められるんですね。絵は結構スピーディーな表現なので、局面変わっていくわけですよね。そして常にそこで決断をして次の手が入っていくんですけど、立体を作る時は、チクチクと彫ったり、何か時間の流れが、絵を描くよりも緩やかなんですよね。そういう二つの違う表現を僕自身は抱え込んでしまったので、あとはずっと両方やるんだと思うんですけど、励ましていただいてありがとうございました。

★３

高島）私の作品は線の太さの変わっっていくもの、筆、色鉛筆、メタルポイントといって金属の筆があります。
まず、筆の作品を説明します。筆の作品はまずインクを付けたときは太いんです。ここが出発点なんですね。ずーっと引いていくと、だんだん細くなっていくんです。そしてまたインクをつけてまたなぞっていくんです。それを何回も繰り返していくと、（最初の線と最後の線とで）これだけの幅がでてくる。その太さの違いで空間というか、立体感というか奥行を作っている、そういう作品です。

桑原）
普通にできることじゃないんで、ぞっとしましたよ。
何でこんなこと始めちゃったのかな、というのがあって。僕はアールブリュットが好きなんで、アールブリュットの作家なのかなと最初は思ったのですけど、そうではないようなんですけど。ここまでやる人ってちょっといないと思います。最初からこの描き方だったんですか？それとも具象的な絵を描いていたんですか？

高島）
私も子供のころからずっとやっていたんです。教科書とかノートとかにこういうペンのつらなりの落書きばっかりしていたわけですよ。

（一同笑）

桑原）
それは残っているのですか？

高島）
一応残してるのもあったけど、この間全部捨てたかもしれない。
ただ、なにか物足りないと思ったんです。そのときサインペンとかボールペンとか、そういう線の太さ変わらない素材で書いていたんです。それを、線の太さが変わる素材で描けば、勝手にこれが空間を作ってくれるということを30歳くらいのときに見つけたんですね。それで作品になるようになりました。

前田）
確かにこれは驚異的です。この大きさにこの密度のライン埋めて全部を描きつくしていくというのは、驚異的な精神力です。
ある意味ではこれはその高島さんのその時の呼吸とかね。脈拍がね、線になって現れているのかなみたいな気もするし、何かそこでいろいろ考えながら描かれているはずですよね。何時間も集中してやれるということは、多分、5～6時間はやるんでしょう？

高島）
これは一作品に2ヶ月かけています。要するにこれ線を１本ひくのに２０分ぐらいかかります。

矢内）
制作されているところを見せていただきまして、不思議なことに５０分ぐらい見せていただいたんですけども、そばにいてずっと見ているだけなんですが、全然飽きなくて。なにかすごく描きながら楽しまれているっていう不思議な感じを受けました。ついつい見入ってしまって、いつの間にか５０分経ってしまったって感じでしたね。
かなり偶然性を意識してらっしゃるけれど、すごく現実感があって、奥深いし、有機的な感じもして、それも意識されて制作されていると思うんですが、結果的にはついつい作品に見入ってしまう。そういう作品になっていて、なにかすごく不思議な感じが私はしました。

前田）
これは基本的には楽しい作業なんですか？高島さんにとって。

高島）
絵を描く行為は面白いですよ。すべての人にとって。それが仕事になって厳しくなるのかもしれないですけど、最初、子供が描く時は、目的というものよりもその行為自体が本当の目的なんですよね。面白くなかったら描けないです。続かないです。だからこれを描くのは私には面白いということです。

★４　浜口陽三

桑原）
メゾチントを知らない方もいると思うので、一応説明しますけど、同じ銅版画でも違うのは、最初に黒を作るだけなんですね。それは例えばイメージ的には画用紙を鉛筆で真っ黒に塗って、その後、消しゴムで白く描いていく。軽く削ればグレーになる。いくらでもグラデーションが出せる版画です。磨いたら真っ白になっちゃう。この下地がものすごく大変なんです。最初に何をやるかっていうと、ベルソーと言って、フランス語でゆりかごの意味なんですけど、この道具の先にギザギザがついていまして、銅板に当てて、力要るんですけど、振りながらちょっと前に進めると少しずつ少しずつ前に進んでいきます。ただ通り一遍じゃ駄目で、今度はこっちから、その後斜め45度からと（目立てします）。それをいい加減にやってしまうと、絵の中に、出来ているところと出来ていないところができちゃうんです。で、このメゾチントが美しいは、このビロードのような真っ黒の画面ですよ。だからほとんどのバック（背景）は黒くて、そこに明るいものが浮かび上がるっていうのがメゾチントなんです。その作業がものすごく大変なわけなんです。僕、浜口さんの作品で、ちっちゃい版画が好きなんです。あのちっちゃな、メゾチントですね。さくらんぼが1個だけとか、ざくろが1個だけとかね。

高島）
私は版画は専門家ではないのでよくわからないんですけど、お話を聞いてみて、やっぱりバックや黒のテンションが物凄いと思うんですよね、浜口陽三の作品は。話を聞いてみると、ドローイングに近いと思うんですね。この黒色が。背景が、黒というよりもドローイングの作品じゃないかなというイメージです。

前田）
先ほど桑原さんの詳しい話を聞いて、まるで浜口陽三自身から説明を聞いたような気がしました。やはり黒色、魅力だと思うんですけど、僕はねこの作品が好きです。（《雲》を指して）何か風景をちょっと感じるのと奥に感じるなと。
この間に何かを浮かびあがる色が、慎ましやかで何かちょっと心を揺さぶります。

矢内）
美術館に長い間務めていたんですけど、そこの美術館でも浜口陽三さんの作品を所蔵しておりまして、いつも身近にあったという感じがしておりました。浜口さんは本当に国際的に評価が高くて、非常に大きな功績を残した方なんですけれど、私が感じるのは、ものすごく技術という点では極めていらしたと思うんですけど、技術を極めて極めて最後に、神秘的な面を感じてしまうんですが、描いたものに、精神的なものが投影されているのかなと思ってしまいました。
今回の企画も浜口さんと親密性のある作家さんを求めたと思います。いろいろなかたちで影響を与えていると思いますので、今のお三方もきっとどこかに浜口さんが心のなかの根底にあった作家さんだと思います。