イベント情報 | |
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出演 | 福田尚代×福永信(小説家) |
日時 | 2013年6月1日(土)14:00~15:00 |
参加費 | 入館料のみ |
定員 | 60名 |
申込み | 5月25日(土) 11:00より電話受付(先着順) |
この3月にも京都で対談し、「言葉は小さい粒子」と語った美術家・福田尚代と、
「福田さんの略歴はそれ自体が作品」と評した小説家・福永信が、再び作品や
時間をめぐって話を繰り広げました。その一部を紹介します。
お話にでてくる略歴は こちら をご覧ください。
■福田尚代の不思議な略歴について 福田:年表って不思議ですよね。いろんなことが起きているはずなのに、書くときに選択しているわけじゃないですか。その時点ですでにフィクションというか、意識的とは言えなくとも、ひとつの繋がりになる何かを選んでいて、実は書かれていないこともいっぱいあって、それも透けて見えますよね。その年に、ほんとうにそれだけしかなかったわけではないから…。この「略歴」はそういうものかも。作品みたいな感じです。 ■消しゴムの話 大学卒業後、私には「物」をつくることからしばらく離れていた時期があって、その頃は言葉を書いたりしていたんですけど、もういちど「物」について考えて、「物」へかえってきた時に、最初にしたことが、けしごむの彫刻だったんです。 福永:福田さんは年譜の2010年のところに「11月6日 けしごむの夢を見る。白い骨のような輪郭線だけが残されている。」と書いています。その夢がきっかけで、作品がつくられていったそうですが、福田さんの作品を見るという経験が、まるで、ぼくらの見ている夢だったらいいですね。でも、夢で終わらないのは、作品はまさに目の前にあって、空洞で向こうが透けて、すかすかなんだけど、全部の輪郭が消えてしまっているのではなくて、がんばれば文字だって消せるという、すれすれのところで、けしごむという機能が残されていることですね。 |
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■言葉は粒子 福田:今回はたぶん私がこれまでにつくった空間のなかで、いちばん静かな展示になりました。言葉はくりぬかれてしまって無いのだけれど、まさに消し「はじめる」だから、言葉を消して終わった、というよりは、言葉とかかわった果ての姿という感じです。言葉によって「物」のことを考えたり、「物」としての言葉を想ったり、つまり美術の立場から言葉を「物」として使っているところがある。ひとつひとつ、粒のように使っている。 ■時を重ねる 福田:書くことと消すことのくり返しです。一つの作品の中で、福永さんの言う「逆のこと」が同時に起きている場合がある。それが同じ意味になっていく…。 福永さんが小説を書いてる視点とまったく同じにはなれなくても、想像をね、するんです。自分が書いている言葉を異様にくっきりと見渡している様子とか、福永さんの小説は一つの言葉がおおきな効果を発揮するものだから、単語を一個書き変えた時に見え方ががらっと変わったりする様子とか。小説を読みながら、作者が書いている時の手許の光景を想像することがある。 けしごむを彫る作業はものすごく単調なので、同じことの繰り返しに見えるかもしれないけれど、実はちぎれたりいろいろなことが起きている。原稿用紙は一見まっすぐに見えるけど、フリーハンドでひと升ずつカッターでくり抜いてゆくから、近付いて見ればゆがんでいる。その視点に誰か他の人が入り込むことができたら、きっと退屈には見えないでしょう。でもそこまで見せる気持ちもないし、表面にあらわれたものだけを見てくださる方がいて、続けていられるんだろうな、とも思う。 それから一個の作品が終わらずに、違う姿に生まれ変わって、制作が続いてゆくこともあります。本の背表紙から切りとったしおり紐も、最初はただの紐だったんです。その後、洗濯したり、アイロンをかけたり、あるときはほぐして綿状の雲になり、今回はああいう形になり、そういうことが、実は起きてる。 |
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■制作におこっていること はるかなる島 福田:ここでは幸い設営に時間をたっぷりとらせて頂けたので、たとえば色鉛筆の芯がね、展示していくうちに、だんだん砂浜に散らばっているちっちゃい貝殻に見えてきたんです。隣のしおりの作品も、まったく思いがけない形、島みたいな形になったんだけど、その島の中にも、ちっちゃい貝殻が散らばっているのが見えたんです。本当は単にしおりの糸のちいさな粒だったんですけど、私には隣同士の作品がつながったように見えて、すごくびっくりしたし、嬉しかったし、納得した。今日はこうしてお話していますが、普段は完成した状態だけを見ていただくわけです。でも実はそういうことがたくさん私の中におきています。もしこうしようと意図していたら、おそらくそういうことは起きない。びっくりもしない。作品は自分でプランをたてて出来ることではないです。多分、この場所や時間や人もかかわって起きていることです。 |