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【匠の皿 vol.31】「大豆の炊き合せ」茂幸 料理長 菅野 茂男 氏

 
今回のメニューを開発するにあたり、食材として私が着目したのは大豆です。大豆はそのまま食材として使えるだけでなく、発酵させれば醤油や味噌、納豆に、絞れば豆乳や油に、その他様々な加工を施すことで湯葉、高野豆腐、豆腐、きな粉などになり、私たちの食生活を支えています。そんな大豆と大豆から作られる加工品を使い、植物性の旨味を活かして炊き合せたらどのような表現になるのか、チャレンジしてみようと思ったのです。
 

 
用意した食材は、大豆、高野豆腐、乾湯葉、大豆油、そして「ヤマサ特選しょうゆ」です。この醤油は香りと塩味のバランスがいいので愛用しています。香りがないと塩味を強く感じてしまいますから、醤油の香りはとても大切なもの。今回のメニューでも欠かせない存在です。大豆と大豆加工品以外の食材は、出汁をとるための昆布と甘味をつける和三盆だけにして、極力控えました。
 

 
まずは大豆を、ゆっくり火が通るくらいの火加減で、少し濃いきつね色になるまで煎って、香りと旨味を引き出します。風味をよくするために、必要な分を直前に煎るようにしましょう。そこに沸かした昆布出汁を注いで火を止め、20分ほど置きます。なぜ、出汁を沸かしてから入れるのかというと、煎った大豆との温度を合わせるため。そうすることで大豆の香りが出汁に移りやすくなります。この、昆布出汁と大豆を合わせた「精進出汁(しょうじんだし)」は、昔から基本の出汁として受け継がれてきたものです。
 

 
濾して大豆を取り除いた出汁に、「ヤマサ特選しょうゆ」、和三盆を加え、出汁に使ったものとは別に用意した大豆と、高野豆腐を炊きます。この大豆は前日から一昼夜水に浸けて戻しておいてください。また、高野豆腐は、戻す際に重曹を入れると柔らかな仕上がりになります。
 
次に、炊いて絞った高野豆腐と、乾湯葉を、大豆油で揚げます。高野豆腐は豆腐の角がさっと色づく温度で、乾湯葉はそれより少し高い温度でサッと揚げます。
 

 
実は、試作をした際に、引き上げ湯葉を「ヤマサ特選しょうゆ」に2日ほど浸けて熟成させてから揚げてみたのですが、パリパリとした食感の中にチーズを彷彿とさせるコクが出て、とても美味しかったです。残念ながらこの料理には合わなかったので使っていませんが、新しい味の発見になりました。
 

 
最後に、揚げた高野豆腐と乾湯葉を、炊いた大豆と一緒に盛りつけ、出汁をかけて完成です。出汁は様子をみて「ヤマサ特選しょうゆ」で味を調えてください。
 

 
ほぼ大豆と大豆製品だけで作る料理でしたが、滋味深く仕上げることができました。私は、大豆をはじめとする豆を、もっと注目されるべき食材だと考えています。豆は様々な形で、私たちの暮らしの中に存在しています。種類が多く、栄養豊富で、使い道も様々。保存しやすい乾物でもあり、食のサスティナブルにつながります。しかし、その栽培や加工には多くの人の手がかかっているということを忘れてはいけないでしょう。
 

 
同じことは発酵食品にもいえます。発酵も、食材を保存させることから生まれたサスティナブルな食の知恵です。日本料理では、醤油をはじめとする様々な発酵食品を食材や調味料として使います。お客様に出す時にわざわざ「これは発酵食品ですよ」などと言う必要がないくらい、当たり前のように日本料理を支えているものです。だからといって自分で作るかというと、なかなかそうもいきません。発酵食品もまた、古くから受け継がれてきた製造工程を担う、多くの人たちの手によって作られているのです。
 

 
このメニューでは、当初、豆腐に塩を塗って硬くなるまで干した「六条豆腐(ろくじょうどうふ)」を使いたいと考えましたが、既に入手ができなくなっていました。日本料理には長い歴史がありますが、昔から受け継がれてきた伝統的な食材やそれを作る技術には、失われていくものも少なくないのが現状です。私は、食材を育て、加工し、私たちのもとへと届けてくれる人たちの存在を常に念頭に置きながら、今後も日本料理を大切に守り、継承していきたいと思っています。
 
「大豆の炊き合せ」のレシピはこちら