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【匠の皿 vol.29】「天然蝦夷アワビのたまり炭火焼き 浅葱のオルツォット」ALMA 料理長 佐藤 正光 氏

 
どのような料理を作ろうか悩みましたが、やはり東北で今一番美味しい食材を使いたいと思い、天然の蝦夷アワビを主役にした料理を考えました。
 

 
もともとアワビを使ったスペシャリテがあったというのも、このメニューの開発を後押ししましたね。アワビの旬というと一般的には夏ですが、三陸の天然蝦夷アワビは冬。三陸の漁場には昆布やワカメが豊富で、それらを食べながら荒波にもまれて育った蝦夷アワビは、食感も風味も格別なんです。
 

 
まずアワビを丁寧に磨いてキレイにしてから、2時間蒸します。その後、肝を外して裏ごしし、「生引たまり」、みりんと合わせて肝醤油を作ります。「生引たまり」は、旨味や甘味があって普通の醤油に比べると味わい深く、コクのある肝に合わせるのにちょうどいいんです。でも使い心地はサラッとしているので、西洋料理でもいろいろな用途で使いやすいでしょう。
 

 
次に、イタリアではサラダやスープなどにして伝統的に食べられてきたオルツォ麦を、芯が残らないように10~15分ほどかけて茹でます。この後リゾット米と一緒に炊き上げますが、煮崩れしにくくプチプチとした食感が残るので、事前にしっかり茹でておくことをおすすめします。
 

 
鍋にオリーブオイルをひいて、リゾット米を炒めます。今回は、リゾット米と日本のお米を掛け合わせた新潟産の米を使います。粘り気がありながら煮崩れせず、使い勝手がいいリゾット用の日本米です。白ワインを入れてアルコールを飛ばしたら、昆布出汁と鶏のブロードの合わせ出汁を加えて、茹でたオルツォ麦も加えます。様子を見ながら途中で出汁を加えて、中火で30分炊いてください。炊きあがったら、浅葱、バター、パルミジャーノチーズ、オリーブオイル、塩で味を調えます。
 

 
この料理では、私が好きな日本料理の昆布出汁を、西洋料理の出汁である鶏のブロードと組み合わせました。この合わせ出汁は他の料理にもよく使うのですが、お互いの旨味を乗せやすく、味わいが重たくならないのがいいんです。
 

 
蒸したアワビはオリーブオイルを塗って炭火にかけ、肝醤油を刷毛で塗りながら香りが出るまで焼きます。このように油と醤油を一緒に使うと、味が乗って旨味が広がるという相乗効果が期待できます。
 

 
リゾットをお皿に盛り付けたら、カットしたアワビを載せ、その上に海苔のチュイルを添えて完成です。薄いおかきのようなチュイルは、生海苔を加えて鶏の出汁で炊いた日本米を、ペースト状にして薄く伸ばし、オーブンで乾燥させてから焼いたもの。日本米を使うことで、親しみやすい香ばしさや風味を料理にプラスしました。実はチュイルに使った海苔は蝦夷アワビと同じ三陸の海で育ったものであり、同郷の食材ならではの馴染みのよさも意識しています。
 

 
日本料理もイタリア料理も、食材をシンプルに活かしているのが魅力。そのシンプルさの中で、料理や食材に秘められたストーリーを表現するのが私の目指すところです。今回の料理を口にしたお客様にも、私の基礎となっている日本料理の伝統や、私を育ててくれた故郷を感じてもらいたいと考え、昆布出汁と醤油に日本料理の存在を、蝦夷アワビと海苔に三陸の海の豊かさを託しました。
 

 
私は、調理師専門学校を卒業する際、進路として日本料理を選択しました。もともといろいろな料理にチャレンジしたいと思っていましたが、料理の基礎として、日本料理を習得しておくべきだと考えたからです。その後イタリア料理に転向しましたが、料理の世界はボーダーレスになってきていますし、今後もイタリア料理を作り続けるとは限りません。ただ、どんな道を歩んでいくとしても、日本料理で学んだことはこれからも私を支えてくれるでしょう。
 

 
「天然蝦夷アワビのたまり炭火焼き 浅葱のオルツォット」のレシピはこちら