English

【スペシャルインタビュー】 ソムリエ 大越 基裕氏

 
私がペアリングにおいて大切にしているのは、完成した料理から最適なドリンクを導き出すことです。つい食材を起点に考えてしまいがちですが、調理方法や味付けによって料理の世界観はがらりと変わります。大事なのは「料理とドリンクが互いに引き立つ世界観」をつくること。そのためにも味や香り、舌ざわりなど、料理を構成する要素をしっかりと理解し、特に打ち出したいポイントと結びつくドリンクを選ぶ必要があります。
 

 
An Diの定番メニュー「季節の生春巻き」から例を挙げるとすれば、「サーモンと葡萄の生春巻き 燻製ココナッツソース」。ココナッツミルクとサワークリームのディップの味わいが印象に残る料理なので、山形県の銘酒「山形正宗 亀の尾 生もと」を合わせています。生もと造りの日本酒が持つ風味は、乳製品系の香りと相性が良く、豊かな旨味はクリーミーなディップと合わさることで食感の一体感を生みます。ワインの場合は、マロラクティック発酵※で仕上げられた酸味がまろやかな白ワインが適していますね。
※マロラクティック発酵:アルコール発酵を終えたワインに含まれるリンゴ酸を、乳酸菌の働きでより酸味の優しい乳酸に分解する工程。
 

 
「鰹のタタキとビーツのフリット コブミカンの香り」は、一見鰹がメインに見えますが、ビーツと一緒に食べることを前提にした野菜が主役のメニューです。そのため、2つの食材の持ち味をしっかりと支えるドリンクが求められます。鰹だけをとれば軽やかなピノノワールですが、ビーツの甘みや土っぽさとも調和させることを考えると、より凝縮感のあるワインがふさわしい。そこでセレクトしたのが南アフリカ産の赤ワイン「David&Nadia Elpidios 2015」です。タンニンがよく溶け込んでおり、凝縮感を持ちながらも重くない点が特長です。さらに、スパイシーな香りも良いアクセントになっています。これ以上ないペアリングだからこそ、その世界観をしっかりと楽しんでいただくため、お客様には「鰹とビーツは一緒にお召し上がりください」と必ずお伝えしています。
 

 
「料理×ドリンク」という掛け合わせが生み出すマリアージュには、まだまだ知らない世界があります。いま私が興味をもっているのはノンアルコールドリンク。フルーツを煮出してつくるフルーツウォーターや、旨味と香りをしっかりと抽出した緑茶、香りを自由にアレンジできるモクテルなど、組み合わせの可能性は無限に広がります。ペアリングの真髄は「人を楽しませる」ということ。ドリンクのジャンルやアルコールの有無は問いません。ぜひ皆さんも、自慢の料理といま一度じっくりと向き合い、ドリンクごとの特徴を五感で学び、そして最高のペアリングを発見してください。