店の〝ギャップ″とエンターテインメント性のある料理が
若い世代に支持される「酒羅場」
三軒茶屋駅からにぎやかな通りを進んだ先にある「酒羅場」。いかにも居酒屋らしいスタンド看板に迎えられて店に入ると、そこには想像もしていなかったカフェのような空間が広がります。
「大切にしているのは、そんな〝ギャップ″なんです」と話すのは店長の小林健祐さん。居酒屋を経営していた小林さんと焼き鳥屋を経営していた泉優祐さんが、共同で始めたお店が「酒羅場」です。小林さんのいうこの店の〝ギャップ″とは「カフェのような雰囲気なのに居酒屋メニュー」「定番の居酒屋メニューなのに斬新な盛り付けや味付け」「居酒屋なのに上質な器」など様々。従来の居酒屋のイメージをいい意味で裏切る“ギャップ”で多くの若者の心を掴み、予約困難なお店になりました。
店長・小林健祐さん
お客様の約8割が注文するのが、キラーメニューの「ポテタマ」です。「パルミジャーノつくね」など美味しさと新しさを両立させた料理を生み出してきた泉さんのお店のポテトサラダを、「酒羅場」ではお客様自身が半熟卵を割るようにアレンジして提供しています。そのエンターテインメント性や卵の黄身がトロリと流れ出る様子がウケて、動画をインスタグラムにアップするお客様が続出しました。「お客様のSNSが思いがけない宣伝となりました」と小林さん。なめらかなマッシュポテトに素揚げした角切りのじゃがいもを加え、『ヤマサしょうゆ』や粒マスタードなどで作ったオリジナルドレッシングとフライドオニオンでアクセントをつけた、食感にも味わいにもひねりのある一皿です。
失ってはいけない大切なものは何かを見極めて
お客様に飽きられない店となる
「おしゃれで美味しいのに手頃な価格」も「酒羅場」が仕掛ける〝ギャップ″の1つ。「ピスタチオチーズといちじくのはちみつがけ」や「白桃サワー」「梨サワー」など、季節の生フルーツを使ったメニューもSNSに多くの写真がアップされる人気メニューですが、物価高騰が続く中で生フルーツを使うのはコスト的に厳しい面もあるといいます。それでも「価格を上げたり食材の質を落としたりしては、お客様の信用を失い、結果的にお店の未来につながりません」と小林さん。新しいメニューを日々開発しているのも、食のトレンドに対するアンテナを鈍らせず、お客様に新たな驚きを提供し続けるために必要なことだと話します。コストがかかっても、話題性のあるメニューであれば集客の強力な一手に。「コストは総合的にみて判断します。加重すべきところを見極めれば大きな問題にはなりません」。
現在は若い女性を中心に遠方から訪れる客も多く、まるで観光スポットのような状況に。そんなブランド価値を活かし、将来的にはこのエリアで新たなコンセプトの店舗も展開したいと考えています。「例えば『大人の酒羅場』なんていいかなと。お客様をがっかりさせたくないので、自分の目が届く範囲内で展開し、混雑時にお客様を他の店舗にご案内できるようにしたいです」。ブームとなった数あるネオ居酒屋の中で、お客様に支持され続けるためには、何に重きを置いて独自価値を高めるかが大切であることを「酒羅場」は証明しています。
お客様のライフステージの変化に着目し
街に根付いた「食堂かど。」
三軒茶屋駅の西側に広がる住宅地にある「食堂かど。」。このエリアで居酒屋を展開する企業の4店舗目としてオープンしました。「長年三軒茶屋で居酒屋をやっている中で、お客様のライフステージの変化に気づきました」と語るのは店長の阿波尚輝さん。「生活が変わり居酒屋になかなか来られなくなった方が足を運びやすいお店とは何かを考えて、たどり着いたのが〝食堂″だったんです」。
目指したのは、ランチもカフェも利用できて、お弁当のテイクアウトもあり、夜は食堂メニューでお酒が飲めるお店。その日の気分や行動に合わせて利用できる使い勝手のよさから、近隣に住む人や働く人を中心に、幅広い層が足を運びます。「近所のご高齢の方からはお惣菜のテイクアウトのご要望もいただいています」という料理長の中村錬さん。街の人に親しまれ、美味しさを認められている表れでしょう。通りに面して窓が大きくとられ、縁側も設えられた店構えにも、店と街との垣根の低さを感じます。
左:料理長の中村錬さん 右:店長・阿波尚輝さん
〝食堂″だからこそこだわる
料理の美味しさと帰りたくなる雰囲気づくり
人気の料理を昼も夜も、お弁当でも食べられたり、コーヒー豆を漬けた焼酎をアイスコーヒーや豆乳などで割る「珈琲酎ハイ」といったメニューが楽しめたりするのは、多面的な営業をしているこのお店ならでは。ネオ居酒屋といわれる「食堂かど。」ですが、「食堂を名乗っていますから、まずは美味しさを実感してもらいたい」と中村さん。料理を最高に美味しい状態で食べてもらうため、調理法に工夫を重ね、食材も厳選しています。
肉の厚みをミリ単位で調整し部位にもこだわったのが、キラーメニューの「豚肩ロースの黄金生姜焼き」。ランチやお弁当のおかずだけでなく、夜のおつまみとしても好評です。味の決め手となるのは、知人を通じて取り寄せている高知県産の希少な「黄金生姜」。中村さんが惚れ込んだという豊かな香りとまろやかな辛味が、食べ応えのある肉と調和し、食堂定番の生姜焼きがワンランク上の味わいに仕上がっています。
ごはんは中村さんの故郷、新潟県岩船産の米。ランチの一番人気「銀鮭のいくらおろし定食」の鮭は鮭の産地でもある新潟県村上市から取り寄せるなど、「安心と安全、そして質を落とさないために、食材調達では人との縁を大切にし、地方の生産者やこの地域の販売店とWin-Winの関係を築いていくよう心がけています」と中村さんはいいます。
阿波さんはお店の人気の理由を、料理と共に「人」だと分析します。「お客様に、楽しく過ごして気持ちよく帰ってもらうことが一番。だから、ほどよい距離感での親しさと、行き届いた心配りを、スタッフ一人ひとりが考えて行動しています」。一人で訪れたお客様には料理を小さなポーションで出すのも、通常の量ではいろいろな料理が食べられず満足度が下がってしまうから。営業時間によって照明も音楽も変えて居心地のよい空間を作り、お店を出るお客様には「いってらっしゃい」と声をかけるところにも、サービスという言葉では表現しきれない心づくしがあります。お店の存在を身近に感じられる、マグカップなどのオリジナルグッズも好評です。お客様に「また来たい」ではなく「帰りたい」と思わせる店づくりは、昔ながらの居酒屋や食堂に通じるものであり、「食堂かど。」はそのよさを継承しているといえるでしょう。
2つのお店から見えてくる
ネオ居酒屋が求められる理由とは
「酒羅場」と「食堂かど。」に共通するのは、ネオ居酒屋らしい独自のコンセプトをしっかり守りながらも、お客様のニーズに真摯に向き合い、柔軟に応えようとする姿勢。飲食店の新潮流であるネオ居酒屋ですが、多くのお客様に支持される理由は、単なる奇抜さや目新しさではなく、料理の美味しさや楽しい時間の提供、居心地のよい空間でお客様を満足させるという、飲食店の基本の中にあることが分かりました。
【店舗紹介】
■酒羅場
〒154-0024
東京都世田谷区三軒茶屋1-36-6 三軒茶屋ラビB1F
17:00~24:00(L.O.23:00)
※不定休
※新型コロナウイルス感染拡大の影響により、営業時間が変更になる場合がございます。詳しくは店舗へお問い合わせください。
https://www.instagram.com/shu_ra_ba/
■食堂かど。
〒154-0004
東京都世田谷区太子堂4-26-6 ヴィラ三軒茶屋
〔月~木〕11:30~15:00 17:30~22:00(L.O.21:00)
〔金・土〕11:30~15:00 17:30~23:00(L.O.22:00)
〔日・祝〕12:0~15:00 17:30~22:00(L.O.21:00)
〔テイクアウト〕月~金 11:30~(売り切れ次第終了)
※不定休
※新型コロナウイルス感染拡大の影響により、営業時間が変更になる場合がございます。詳しくは店舗へお問い合わせください。
https://www.marco.tokyo/shop_kado.html
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