石畳が映し出す花街の風情と、人々の営みが感じられる下町の親しみやすさが同居する曙橋において、「曙橋まる富」はさながら別天地への入り口を思わせる凜とした空気を醸しています。
暖簾をくぐると、純和風のしつらえを照らし出すやわらかな灯り。洗練されていながら、どこか家庭的な雰囲気に郷愁を覚えます。そこで腕を振るう小野寺健一さんは、日本料理研究会の師範を務める、日本料理界の若き指南役。その手さばきを間近で堪能できる空間には、伝統食の粋を極めた匠の「お客様と近い距離で、出来たての料理でおもてなしたい」という積年の思いが息づいています。
名匠の人生を映し出す
「和牛×日本料理」の逸品
「曙橋まる富」が提供する、四季折々の食材を取り入れた会席料理。“コース料理のみ”という潔のよい文字からは、手がける品々に対する小野寺さんの自信がうかがえます。数あるメニューのなかでも、とりわけ人気を集めるのが「和牛とウニの手巻き寿司」です。「前菜や凌ぎなど、コースのさまざまなシーンで親しまれている看板メニューです。うれしいことに、複数個注文される常連様もいます」と話す小野寺さん。故郷・岩手県の和牛ヒレ肉をひとたび焼き始めると、醤油と日本酒が相まった芳醇な香りが店いっぱいに広がります。
一見すると、きらびやかで豪快奔放。しかし、肉の火入れ具合や造形美など、随所に日本料理の精神と技が散りばめられています。花形料理たる気品づくりに一役買う「醤油のジュレ」にも、小野寺さんのこだわりが。「醤油のジュレには、和牛やウニの滋味を下支えるために、旨味に芯がある『ヤマサ重ね仕込しょうゆ 本懐石』を使用し、もうひとつの特徴である鮮やかな赤色を際立たせるため、アルコールを飛ばした日本酒と合わせています」。厳選食材と確かな技法が組み合わさることで生まれるのは、“ウニク”ブームやSNS映えで注目を集める「肉×ウニ寿司メニュー」とは一線を画す繊細なおいしさです。
和牛を活かしたメニュー開発は、歴史ある日本料理の定石を覆す一手。その革新的な試みには、自身の生い立ちが関わっていると小野寺さんは話します。「実家が精肉店を営んでいたことから、和牛はとても身近な存在でした。日本料理人として自分らしい“型”を模索するなかで立ち返ったのが、人生における縁の深い食材・和牛。日本料理特有の繊細さと調和する和牛メニューを目指し磨き続けた末に完成しました」。「和牛とウニの手巻き寿司」を筆頭とするたゆまぬ探究が実を結び、今では『和牛×日本料理』という境地を切り拓いた名店として「曙橋まる富」の名は知れ渡っています。
世界が認めた日本料理の新機軸は
鍛錬の先にさらなる高みへ
小野寺さん渾身の「和牛とウニの手巻き寿司」は、曙橋界隈の食通だけでなく、近年は訪日観光客も魅了しています。ほおばれば個性豊かな厳選素材をひとつにする緻密な技に酔いしれること請け合い。まさに説明不要のおいしさですが、お客様の立場に立った気配りが料理の魅力を一層高めています。英語表記の献立やAI翻訳機を介しての料理説明など、訪日観光客の日本料理に対する興味関心に応える工夫を随所に散りばめ、食事のペースに関しても臨機応変に対応。卓越した技量、おもてなしの心という“才徳兼備”の小野寺さんが届ける至福の時間は、世界的にも高く評価されています。
日本料理界の高みを歩む小野寺さんですが、現在に至る道のりは平坦ではなかったと振り返ります。「開業当初は地域の皆様においしさを知っていただこうとランチに奔走した時期もありました。そうした試行錯誤の日々は、今も続いています。多くのお客様にご愛顧いただいている現状に感謝しつつ、決して満足することなく精進したいです」という力強い言葉から伝わる、揺らぐことのない謙虚さ。その鍛錬の先に見据えるものとは。「私を育ててくれたこの街に、より多くのお客様が楽しめる一回り大きな店舗を開業するのが当面の目標です。そして、次の世代を担う若い料理人と切磋琢磨したい。現在、そして未来も一料理人として日々完全燃焼していきます」。感謝と謙虚を尊ぶ日本料理人が、曙橋にのばした“日本料理の新世界”に通ずる道。その果てることのない美食の世界に、食通たちは今日も心踊らせるのです。
主役級の厳選食材が共演
匠が奏でる魅惑の多重奏
メニュー名:和牛とウニの手巻き寿司
岩手牛のヒレ肉、北海道産ウニ、静岡県産ワサビという山海川の贅をひとつに。ミディアムレアに仕立てた赤身は特筆すべき柔らかさで、食感・味覚ともに一体感のあるおいしさが広がります。和牛・ウニともに相性の良い醤油はジュレに仕立てることで、きらびやかな見映えと、海苔のパリッとした食感を保つ効果も。小野寺さんの細部にわたるこだわりを感じられる一品です。
①ヒレ肉を約2cmの幅に切り、両面を中火で約30秒ずつ焼き上げ、「ヤマサ重ね仕込しょうゆ 本懐石」と日本酒で香りづけします。
②ヒレ肉を火から上げ、約5分余熱を通します。
③「ヤマサ重ね仕込しょうゆ 本懐石」とアルコールを飛ばした日本酒を合わせ、常温で固まる凝固剤を加えて醤油のジュレをつくります。
④海苔を敷き、その上に酢飯、薄くスライスしたヒレ肉、ウニ、醤油のジュレ、おろしワサビ、花穂の順に乗せて完成です。
【店舗紹介】
曙橋まる富
〒162-0065
東京都新宿区住吉町2-18 1F
営業時間
【ディナー】18:00~22:00
不定休 ※日曜・祝日は2名様より2日前迄のご予約にて承ります。
https://r.gnavi.co.jp/99jmve5t0000
2022年4月より下記の新店舗へ移転し店名も変わりました
神楽坂まる富
162-0828
東京都新宿区袋町3-4 クレール神楽坂14 1F
営業時間
月~土
【ディナー】18:00~22:00
日・祝日
【ディナー】17:00~21:00
※日曜・祝日は2名様より2日前迄のご予約にて承ります。
https://r.gnavi.co.jp/99jmve5t0000/
【小野寺健一氏プロフィール】
1976年生まれ。実家の精肉店を訪れる食分野の職人衆に憧れを抱き、18歳で日本料理の世界へ。日本料理店や料亭、ふぐ料理店などでの研鑽の日々を経て、日本料理の伝統と技を多面的に極める。自身の感性を活かした新たな日本料理店として、2013年に「曙橋まる富」を開業。和牛を日本料理に仕立てるという新領域を確立し、現在国内外の食通から注目される名店となっている。
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