「la boutique de yukinoshita kamakura」は、古都・鎌倉の目抜き通りに店を構えます。ショーケースに並ぶのは、色とりどりのフランス菓子。洗練された美しさの中には、シェフパティシエ・志鎌純一さんのある思いが込められています。
日本ならではのおいしさが宿る
鎌倉発のフランス菓子
同店は、鎌倉市民を中心に親しまれてきた「パティスリー雪乃下」の新ブランド店。志鎌さんが掲げるのは、長年にわたり守り続けてきた洋菓子店としての“伝統”と、既存のフランス菓子にとらわれない“革新”の融合です。「創業の街での新たな挑戦なので、並大抵のものではお客様を感動させることはできません。そこで、フランス菓子の枠から飛び出す『和洋折衷』をコンセプトに店づくりを行いました」。その新たな挑戦を象徴するスイーツがスペシャリテ「マカロンジャポネ」です。
“日本の食材”と“世界の食材”を組み合わせた「マカロンジャポネ」。2色のコントラストが美しい一品は、志鎌さんの卓越した手仕事によって生み出されます。「はりのあるマカロン生地に仕上げるには、フレーバーごとに緻密に計算された配合と、パティシエの肌感覚が必要です。特に、アーモンドプードルと粉糖をメレンゲに混ぜ込む工程『マカロナージュ』は、生地に気泡をほどよく行きわたらせる繊細さが求められます。気温や湿度も仕上がりに影響するため、焼き上がりまでは気が抜けないですね」。
ピンチをチャンスに変えた
国産食材との出会い
「マカロンジャポネ」の誕生には、もうひとつの大きな出来事が関わっています。志鎌さんはオープン準備を進めるなか、新型コロナウイルス感染症の影響により、海外から食材を思うように仕入れられない事態に直面。この向かい風を突き抜けるため、志鎌さんは国産食材に活路を求めます。そんな矢先、ある食材との出会いが、パティシエとしての価値観を大きく変えました。「長野県の味噌蔵が手掛ける『生みそ溜まり』の濃厚な旨味に惹かれ、試行錯誤の末に『味噌たまりキャラメル×味噌』を開発。その経験が私の探求心に火をつけました。国産食材に精通する方々から紹介いただいたのは、山形県にある赤ワイン樽で熟成させた日本酒や、沖縄県で栽培されている希少品種のパイナップルなど、味わいはもちろん、作り手の個性が際立つ一級品ぞろい。知られざる国産食材の世界に、すっかり魅了されてしまいました」。
フランス菓子の新境地につながる国産食材と出会い、進むべき道が「和洋折衷」であると確信した志鎌さん。自らの食体験を起点に、日本酒と最高級カカオの“香りの黄金比”を導き出した「ショコラ×日本酒」や、パイナップルの力強い風味が広がる「エキゾチック×ゴールドバレル」といった厳選食材の持ち味を活かしたフレーバー開発を進め、「マカロンジャポネ」のバリエーションを広げていきました。
生産者への感謝を込めた一粒で
本場フランスへの進出を目指す
いまやスイーツ界でも話題の存在となった「マカロンジャポネ」ですが、志鎌さんは現状に満足することなく新作フレーバーの開発に励んでいます。秋冬期の自信作「フォアグラ×紅玉」は、フォアグラの濃厚な風味をベースに、味噌たまりでキャラメリゼした紅玉が味わいに抑揚をつける新感覚のおいしさです。「旬を迎える紅玉の持ち味を感じていただけるよう、食べ終わりの余韻にまでこだわりぬきました。紅玉は、色づきや形が不揃いなものを適正価格で仕入れています。生産者の方々がプライドをもって育て上げた食材でも、見た目が異なるだけで、安く買いたたかれてしまう現状があります。食材を“使わせていただいている”立場としては、菓子づくりを通して“食材の本質的な価値”を発信することも、大事な使命だと考えています」と志鎌さんは熱く語ります。
今後の目標についてお伺いすると、志鎌さんは壮大な未来図を描いていました。「近い将来、本場フランスに店舗を構えたいです。世界で日本の食文化が注目される今、フランス菓子と国産食材の組み合わせは、現地の方々に驚きをもって受け入れてもらえると信じています。その実現に向けて、まずはここ鎌倉で『マカロンジャポネ』をはじめとした当店のオリジナリティを極めていきたいです」。鎌倉発の“情熱の一粒”が海を渡る日を見据えて、志鎌さんの挑戦は続きます。
【店舗紹介】
■la boutique de yukinoshita kamakura
10:00~18:00
※不定休・臨時休業あり
※新型コロナウイルス感染拡大の影響により、営業時間が変更になる場合がございます。詳しくは店舗へお問い合わせください。
https://yukinoshita-kamakura.jp/
【志鎌純一氏プロフィール】
1982年生まれ、神奈川県出身。葉山の老舗洋菓子店「パティスリー・ラ・マーレ・ド・チャヤ」でパティシエとしてのキャリアをスタート。その後「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」「ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション」などの世界的パティスリーでフランス菓子の伝統技法と創造力に磨きをかけ、2019年より「パティスリー雪乃下」の4代目シェフパティシエに就任。現在は「la boutique de yukinoshita kamakura」のシェフパティシエを兼任している。
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