醤油はとても美味しく、そして力のあるものです。フランス料理をベースとした私の料理ではバランスをとるのが難しく、使うことを控えてきました。今回のメニューは、醤油に対する私のチャレンジから生まれたものです。
醤油は、甘さやまろやかさがあり、バターなどの乳製品や今回使った八角などのスパイスと親和性が高い「生引たまり」を選び、シュトロイゼル(粒状のトッピング)に仕立てました。醤油以外の材料をフードプロセッサーにかけて均一に混ぜ、最後に醤油を加えると、香りをしっかりと活かせます。
生地を天板に広げてオーブンで焼き、粗熱がとれたら食べやすく砕きましょう。ザクザクとした食感が、料理のアクセントになります。
燻製猪にも醤油を使います。猪肉から取り分けた脂を、ブナの実の殻と砂糖を合わせたもので燻し、小さくカットしたら煮詰めた「生引たまり」と絡めて甘い香りをまとわせます。この香りで、私の好きな台湾の屋台料理のようなニュアンスが加わるんですよ。猪脂やブナの実の殻は調理の過程で生じる副産物ですが、このようなものを上手に使っていきたいです。
醤油と共に料理の主役に決めたのが、ブナの実です。あまりなじみのない食材かもしれませんが、日本では昔から食べられてきたナッツで、森や大地をイメージさせる風味やしっかりとした旨味、油分があります。今回のメニューでは、ブナの実をソテーとペーストに使うことにしました。ソテーでは、ブナの実をオリーブオイルで少し色が変わって香りが出るまで炒めますが、中火で火を通すようにし、焦がさないように注意しましょう。ペーストは、乾煎りして薄皮をむいたブナの実をミキサーにかけて作ります。
菊芋のパンナコッタは、醤油やブナの実といった主役の邪魔をしない引き立て役として作りました。菊芋はクセがなく、しかも旨味や食べ応えもあるので、醤油やブナの実の魅力を存分に生かすことができると考えたんです。日本料理における白米のようなイメージですね。
ローストして皮をむいた菊芋と、牛乳などの他の材料を一緒にミキサーにかけ、器に流し入れて冷やします。軽く固まるまで冷やした菊芋のパンナコッタに、ブナの実のソテーとペースト、たまり醤油のシュトロイゼル、燻製猪を散りばめて、さらに冷やして完成です。
プルンとしたパンナコッタに、様々な食感や香り、味わいが重なりますが、乳製品ともナッツともスパイスとも相性のよい醤油が、それらを調和させる役割を担っています。
今回のメニューを開発するにあたり、醤油の使い方をあれこれと試行錯誤して、私なりの醤油との接し方が見えてきました。九州出身で甘さのある醤油に親しみがあったことから今回は「生引たまり」を使いましたが、他の醤油にも視野を広げ、今後はもっと自分の料理に使っていきたいと思います。
最後に、このメニューのもう1つポイントが「ちゃんと作ること」であることもお伝えしておきます。バターを使うシュトロイゼル作りでは事前にフードプロセッサーをしっかり冷やしておくこと、渋味のある菊芋の皮を丁寧にむくこと、ペーストに使うブナの実は舌触りの邪魔になる薄皮をきちんと取り除くこと。シンプルな料理だからこそ、このような作業で手を抜かないことが美味しさを左右します。
「菊芋とブナの実のパンナコッタ」のレシピはこちら