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【ひしほがたり】第十二話:未来へとつながる郷土料理の再構築とは

 
―おふたりとも同じ時期にフランスの二つ星レストラン「La Grenouillère(ラ グルヌイエール)」にいらっしゃいましたが、そこで今後の活動につながるような影響を受けられましたか?
 
堀内様:渡仏にあたっては最初から「La Grenouillère」に行くと決めていました。盛り付けやプレゼンテーションはもちろん、地方でレストランを経営することの意義やその価値を学びたいと考えていたのです。フランスでは地方ごとにオーベルジュや星付きのレストランがあり、それが文化として根付いています。わざわざ足を運んでまでも食べたいと思わせるのはどんなものか興味がありました。お店では同じ年齢の砂山シェフが先に働いていて、心強かったです。
 
砂山様:休みの日は一緒に買い出しに行ってごはんをつくったりしましたね。僕は9年程の在欧中に複数のお店を経験しましたが、「La Grenouillère」ではオーナーシェフの考えに大きな影響を受けました。お店があるのは、有名な食の特産物があるような地域ではありません。それでもシェフは、「本当に大切なもの、美味しいものは探せば必ずある。それを料理するだけ」という人。「この料理はこれでいいのか、こうすればもっと美味しいのではないか」と考え続ける人でもありました。自分のアイデンティティを料理に反映すること、そして美味しさを追求し続けることの大切さを学べたことは大変な収穫です。
 

 
堀内様:「La Grenouillère」の料理は複雑なものかと想像していましたが、実際に食べてみると、斬新ではあるものの地方特有のナチュラルさがあり、思っていた以上にシンプル。でもそこに、わざわざ食べにくる価値のある、地域とのつながりやその地域ならではの魅力が感じられて、僕も地元の魅力を追求することで自分のアイデンティティを料理に落とし込めるのではないかと考えるようになりました。
 
砂山様:「La Grenouillère」のある北フランスは食に強くないとお話しましたが、それでも、魚の加工品や雨が多い気候に合った野菜など、美味しい食材を見つけ出すことができたんです。その経験から、日本でも地方にはまだ見つけられていない、いいものがたくさん眠っているのではないか、帰国したら地方で料理をつくりたいという思いを強くしました。
 

~La Grenouillère(ラ グルヌイエール)~
 
―今回のテーマである郷土料理について、おふたりとも独自の解釈をされていますが、郷土料理にはどのような魅力があるとお考えですか?
 
堀内様:山梨県の郷土料理といえば、ほうとうや僕の出身地である富士吉田市の吉田のうどんなどがあります。でも、そのような長く食べ続けられてきたものをあえて新たな形に変えてしまうことは、僕にとって自然ではなかった。そこで、郷土を思い出させる懐かしい料理を郷土料理と定義づけて、開発に取り組みました。
 

 
砂山様:僕も同じく、単純にフランス料理にアレンジすることはできないと思いました。郷土料理のように昔から現在まで残ってきたものには、それだけの理由があります。気候や自然、歴史、その中で生きるための知恵、そこでしか手に入らない食材などが相まって、受け継がれてきたのが郷土料理です。生活の延長上にあり、人の手がつくり上げてきた文化ともいえます。
 
堀内様:コロナ禍で国内旅行が注目されましたが、観光では名所を楽しんで、郷土料理を食べる。地域の魅力を凝縮している郷土料理は、文化を知る手段として一番手っ取り早いものでしょう。郷土料理はその地域を表すアイコンですよね。
 
砂山様:郷土料理はそこに暮らす人がその意義を理解して、伝えていくことが大切ですが、流通や保存技術の進化、ライフスタイルの変化によって全国的に失われつつあります。そう考えると、今や郷土料理の魅力は、生き残ってきた力強さと失われそうな儚さなのかもしれませんね。
 

 
―そんな郷土料理の未来に、どのようにかかわっていきたいと考えていますか?
 
堀内様:これまでも“Yamanashi Gastronomy”を掲げ山梨県の食材や食文化にこだわった料理をつくってきましたが、実際に山梨で自分のお店を開くのはこれから。その地域に入ることで新たに見えてくるものはたくさんあるはずです。それが楽しみでもあるし、料理で地元の魅力発信に貢献する自分への期待も高まっています。
 
砂山様:堀内シェフのように、地元で育ってきた記憶がある人がうらやましい。僕は小さい頃を能登で過ごし、その後埼玉で育ちましたが、どちらの家もすでにありません。自分の地元はどこなのかと思いますが、今後、妻の地元である奈良県天川村でオーベルジュを開く予定です。
 
堀内様:どんな所なんですか?
 
砂山様:紀伊半島の中央に位置する人口1200人ほどの小さな村ですが、年間70万人もの観光客が訪れます。それだけの魅力があるのですが、住民が少ないために失われていくものばかりなんですよ。だからこそ、地域や人の記憶、暮らしの知恵を自分のフィルターに通して料理に昇華させ、天川村の有力なコンテンツにしていきたいです。僕が目指すのは「“Cuisine Mémoire”(記憶の料理)」です。
 

 
―堀内様は山梨で、砂山様は奈良で、料理を通じて食べる方に何を伝えていきたいとお考えですか?
 
堀内様:今回僕がつくった料理では、醤油やみりんなど日本の一般家庭では当たり前にある調味料を使い、山梨の方だけでなく日本人の誰もが懐かしさを感じる味わいを目指しました。日本の方にそんな懐かしさや自分のルーツを思い起こしてもらえる料理をつくりたいと考えています。そして海外の方には、それまで知らなかった味から日本への興味や関心を高めてもらえたらうれしいです。
 
砂山様:料理で地域の記憶をつないでいくという思いは大前提としてありますが、さらに加えるなら、食べた瞬間に単純に「美味しい!」といってもらえるものを提供したいです。つい自分の考えを料理に表現したいという気持ちが先走ってしまいますが、誰もが美味しいと思ってくれるのは、すごく大切でとても難しいこと。だからこそ、そんな料理作りに挑戦しつづけていきたいと考えています。
 
 
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【堀内 浩平氏プロフィール】
 

 
1986年生まれ、山梨県出身。
調理師専門学校を卒業後、都内のレストランとホテルを経て渡仏。北フランスの人里離れた場所に位置する二つ星レストラン「La Grenouillère」で腕を磨く。2018年に帰国し、「Ichii」のシェフに就任。2022年4月よりフリーランスで活動しながら、地元である山梨でソムリエの兄と共にレストランを開業するための独立準備に入っている。
 
主な受賞歴
RED U-35 2021 ONLINE レッドエッグ
 
 
【砂山 利治氏プロフィール】
 

 
1987年生まれ、ロンドン生まれ埼玉県育ち。
幼少期を能登で過ごし、都内のレストランで勤務の後に渡欧。フランスの二つ星レストラン「La Grenouillère」ではスーシェフを務める。2018年に帰国後、石川県「ぶどうの木」へ。料理長だった「レ・トネルぶどうの木」では、北陸での最年少・最速で二つ星とグリーンスターを獲得した。現在はフリーランスとして様々な飲食店にジョインしながら、奈良県天川村でのオーベルジュ開業を目指している。
 
主な受賞歴
RED U-35 2017 ブロンズエッグ