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【ひしほがたり】第八話:これからのコーススタイル

 
―日本料理とフランス料理、それぞれの分野でご活躍するおふたりによる対談です。まずは、お店の個性を色濃く映すコース料理について心がけていることを教えてください。
 
武藤様:当店ではメニュー表を用意せず、いまが旬の食材で、いまお客様に食べていただきたいものをつくっています。提供する順番も決めていないですし、その場でメニューを変更することもあるので、スタッフ泣かせですね(笑)。いきなりウニを贅沢に使った料理を出すこともありますし、手元にある食材を使ってお客様からのリクエストに応えることも。目の前のお客様に楽しんでいただくことを第一に考えた、型にはまらないコース料理をふるまうのが私のスタイルです。
 

 
山本様:私はレストランとしての格式を大事にしながらも、食べる人にとって“わかりやすいコース料理”を意識しています。いくら希少価値が高い料理でも、初めて見るような食材とともに難しい説明を並べられたら、純粋に料理のおいしさを楽しめません。非日常を感じつつも、どこか親しみやすくて、口に入れた瞬間「おいしい!」と笑顔になれるもの。そういった食材や調理法のセレクトを心がけてコースの構成を組み立てています。
 
武藤様:わかりやすさに関してはとても共感します。馴染みのある食材を、できるだけシンプルな調理法で。そこから調味料を使っていかに非日常的な料理にできるかが、私たち料理人の腕の見せどころですよね。
 
―異なるジャンルでご活躍するおふたりですが、お互いに取り入れていきたい部分はありますか?
 
武藤様:フランス料理はあらゆる肉料理の火の入れ方が秀逸なので、ぜひその技術を日本料理にも活かしてみたいですね。機会があればフレンチの研究会に参加して習得したいぐらいです。
 

 
山本様:実は日本料理を習いたいと思っているんです。というのも、日本には刺身や新鮮な野菜を食べてきた文化があり、日本料理は鮮度の良い食材をおいしく調理する技術に長けています。いまでは世界各地で新鮮な食材を調達できるようになり、フレンチ業界では素材そのものを活かす味付けが存在感を高めています。フレンチの代名詞である“ソース”の概念が変わりつつあるんですね。そんな時代の節目にいるいまこそ、日本料理の繊細な味わいを生み出す技術を取り入れていきたいんです。
 
武藤様:そうですか!ではぜひ当店に遊びに来てください。私も、フランス料理の火入れ技術を勉強させていただきます。
 
―それぞれの専門領域を発展させるためには、ジャンルの垣根を越えた交流や情報交換が必要なのですね。
 
武藤様:異なる文化にはたくさんの発見があります。私は伝統的な日本料理を土台に、日本のみならず世界中を巡るなかで、様々なジャンルの料理に触れ、その技術を学んできました。ひとつの枠にとらわれずに積極的に吸収してきたからこそ、いまのスタイルを確立できたと感じます。
 

 
山本様:フレンチの世界でも、異国の調味料は取り入れられています。日本を代表する調味料である醤油もそのひとつ。フレンチならではの視点や感性によって、今後新たな醤油の使い方が見つかるかもしれないです。
 

 
―最後に、「これからのコーススタイル」についておふたりはどうお考えですか?
 
武藤様:インスピレーションに身をゆだねたコーススタイルを継続しつつも、日本各地の知られざる食材にスポットライトを当てていきたいです。例えば、九州の朝積みグリーンピース。鮮度が落ちやすく、現時点では東京でその驚きのおいしさを提供するのは困難ですが、生産者と一緒に出荷方法を考えながら、最高のコース料理に仕立てられたらと思います。
 
山本様:今後変革してみたいのは、ホテルウエディングで提供するコース料理。「子どもからご年配の方まで食べやすい料理」が定着していますが、ホテルそれぞれの個性を出したコース料理を提供できれば、ホテルウエディングはさらにユニークになるはず。多少オペレーションは大変かもしれませんが、小規模からチャレンジしてみればきっと実現できると思います。結婚式はお客様にとって大事なイベントであり、ホテルのエンターテインメント性が求められるシーンなので、料理の力でもっと盛り上げていきたいですね。
 

 
武藤様:業界の“当たり前”を変えようとしている姿勢が頼もしいですね。私もつい最近、結婚式場の方から「他の式場にはないコース料理を考えてほしい」と相談を受けたばかりで、ホテルウエディングにおけるコース料理が変化しつつあるのを肌で感じています。山本さんのように常識を変えようとしている若い人たちにはどんどんチャンスを与えていくべきですし、私個人としてもこういったチャレンジを応援したいと思います。
 
山本様:そう言っていただけると心強いです。武藤さんのような自由な発想を活かしながら、お客様にもっと楽しんでいただけるようがんばります!
 
 
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【武藤 誉貢氏プロフィール】
MUTO sendagaya
オーナーシェフ
 

 
1963年生まれ、茨城県出身。
都内の日本料理店での修業を経て、約5年間シドニーやサンフランシスコなど世界各地で魚卸関連業に従事。仕事を通じて知り合った現地の料理人から多彩な料理ジャンルを学び、ふたたび料理人の道を志す。帰国後は全国各地を渡り歩き見識を深めながら、独自の料理像を追求し、2019年に東京・千駄ヶ谷にてMUTOをオープン。
 
■MUTO sendagaya
 

 
〒151-0051
東京都渋谷区千駄ヶ谷2-33-8
YKビル1階
11:30~14:30(L.O 14:00)
18:00~22:00(L.O 21:00)
※水曜定休
https://mutosendagaya.jp/
 
 
【山本 紗希氏プロフィール】
コンラッド東京
 

 
1983年生まれ、大阪府出身。
大学卒業後、大手企業に就職したのちに料理人の道へ。「コラージュ」の前身である「ゴードン・ラムゼイ at コンラッド東京」を皮切りに、フランス料理やスペイン料理店、ワインバーやビストロといったさまざまな業態の店で研鑽を積み、2016年にコンラッド東京に戻る。「コラージュ」と「セリーズ」にて料理人としてレシピ開発を担当し、現在はレストランチームのマネジメントを担っている。
 
主な受賞歴
RED U-35 2018 ゴールドエッグ
RED U-35 2018 岸朝子賞
 
■コンラッド東京
 

 
〒105-7337 東京都港区東新橋1-9-1
https://conrad-tokyo.hiltonjapan.co.jp/