―今回は対談に先立ち、鹿渡さんに「春」をテーマにした料理として「桜鱒 桜醤油焼き 白酢クリーム掛け」をご用意いただきました。この特別メニューには、どのような思いが込められているのでしょうか?
鹿渡様:春と聞いて思い浮かんだのが「桜」です。そこで、私と大越さんの故郷・北海道が代表的産地であり、名前が春らしい桜鱒をメイン食材に決めました。葉桜の塩漬けを使ったオイルに漬け込んでいるので、香りでも春らしさを感じていただけるはずです。春にかけて旬を迎える桜鱒のおいしさを活かすため、「ヤマサ北海道昆布しょうゆ」を中心とした調味料で繊細な味付けに仕上げました。お好みで白酢クリームを付けてお召し上がりください。
(※撮影時は、桜鱒の代わりに霧島サーモンを代用)
大越様:運ばれてきた瞬間に桜が香ってきました。この演出は一口目の期待感を高めます。食べてみた印象としては、余韻が奥深いですね。昆布しょうゆの上品な風味と、焼き上げた桜鱒の香ばしさ、そして桜の香りがうまい具合に調和しています。ペアリングさせるならどんなワインがよいか、いろんな想像をかきたてるおいしさです。
鹿渡様:私も普段から「この料理にはこんなお酒を合わせてほしい」と考えながら料理を作っていて、このメニューは赤ワインが合うと感じるのですが、大越さんはどう思いますか?
大越様:たしかに桜鱒や醤油に合わせるなら赤ワインですね。ただ、白酢クリームがその定説に収まらない味わいのバリエーションを生み出しています。白酢クリームそのものなら白ワインと相性がよいですが、桜鱒にどれくらい付けるかによってペアリングワインのセレクトは変わります。「このワインでしたら、白酢クリームをたっぷり付けて食べるのがおすすめです」とお客様に具体的に提案してみるのも面白いですね。
―大越さんは、普段どんなことを意識してペアリングされているのでしょうか。
大越様:味・香り・テクスチャーといった料理の基本要素や、食べ終わった後のフレーバーや油脂分のバランスをもとに、特徴を引き立ててくれる最適なドリンクを選びます。例えば、この「桜鱒 桜醤油焼き 白酢クリーム掛け」であれば、桜鱒の持ち味が強いので赤ワインもいいですが、油脂分が少ないので赤ワインより軽いロゼワインという選択肢もあります。An Diのワインセラーから選ぶとすると、ロゼワインであれば、オーストラリアの「ファー ライジング セニエ 2016」を合わせたいですね。口当たりやわらかで凝縮感のある果実味が桜鱒と相性ばっちり。亜硫酸が少なく魚特有の香りを抑えられるので、この料理の「魅力のみ」を存分に引き立てる最高の1本になると思います。
鹿渡様:ワインの具体的な銘柄までイメージできることに感心しました。ソムリエとしての経験と知識に裏打ちされているだけにとても説得力を感じます。
大越様:同じ産地でも生産者によって千差万別なのがワインの世界です。どのような料理でも最高のマリアージュを生み出せるように、有名産地や新興産地を問わず世界中のワインにふれるようにしています。
鹿渡様:料理でも同じことが言えますね。作り手や仕入れ時期によって食材の風味ががらっと変わるのが、食の興味深いところ。だからこそ、食材の生産地に足を運び、現場で得られる生の情報を吸収したり、その日の食材に適した調理法を柔軟に考えることが大事だと思います。
―「料理」と「ドリンク」というそれぞれの分野を探究するお二人にとっての、今後も心がけていきたい信念を教えていただけますか。
大越様:料理人がメニューに込めた「最も伝えたいこと」を汲み取り、それを最大限に表現できるワインを選ぶことです。ソムリエとして、お客様への最高のサービスに情熱を注ぐことはもちろん大事ですが、私はそれと同じくらいの熱量で料理人と向き合っています。料理人とソムリエの思いがひとつになることで、その店でしか味わえない「唯一無二の世界観」ができあがるのではないでしょうか。
鹿渡様:一皿のペアリングにそれほどの情熱を注いでもらえたら、料理人としては幸せですね。私は日本料理の醍醐味である四季を感じられる料理を信条としているので、旬の食材だけでなく器や盛り付けにも季節感を取り入れることを心がけています。今回大越さんとお話しして、ペアリングは私の料理を一層高めてくれる分野だと強く感じました。日本酒やワインなどドリンクのことはだいぶ知っていたつもりでしたが、想像以上に奥が深いです。これからは「この料理には、このお酒に合わせてほしい」と具体的なペアリングを意識してメニューを考えていきたいです。
大越様:その意識こそが、最高のマリアージュを生み出すカギだと思います。季節感やメッセージを料理にのせて、それに合わせたドリンクを提案することで、ひとつの世界観を完成させる。料理人やソムリエがつくり上げた世界観のなかで食事を楽しむということは、外食でしか味わえない特別な食体験です。料理人の皆さんには、ご自身の料理の知られざる魅力を開花させる「マリアージュの世界」を楽しみながら極めていただきたいですね。
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【鹿渡 省吾氏プロフィール】
割烹 一献
店主
1970年生まれ、北海道出身。
1986年から札幌のフランス料理店で 3 年間修行したのちに日本料理の道へ。京都、東京の料亭で研鑽を積み、1997年に独立。2005年、「割烹 一献」を開店。総料理長を務めながら、世界各地での講演やリゾートホテルの料理監修、メニュー開発を通した地方創成などを行っている。
<受賞歴>
Haute Grandeur2019
Best Japanese Cuisine in Asia
Best Hotel Restaurant in Japan
■割烹 一献
〒106-0032
東京都港区六本木3-13-3アネックスビル1F
18:00~23:00
※日曜、祝日定休
https://www.ikkon.info/
【大越 基裕氏プロフィール】
ワインテイスター/ソムリエ
1976年生まれ、北海道出身。
2001年、「銀座レカン」にソムリエとして入社し、ワインに関する栽培と醸造の分野を学ぶために渡仏。2009年に銀座レカンのシェフソムリエに就任し、2013年に独立、日本初のワインテイスターとなる。現在は世界各国に足を運んで最新の情報を取集し、講演やワインセミナーを通してワインの本質を伝え続けている。また、外苑前で人気のモダンベトナムレストラン「An Di」のオーナーとしても注目を集める。
<資格>
国際ソムリエ協会認定インターナショナルA.S.I.ソムリエ・ディプロマ
JSA認定シニアソムリエ
WSET Level3 Award in Sake Educator
ブルゴーニュ大学認定醸造技師(DTO)
フランス国家認定農業上級免状(BPA)
<受賞歴>
第1回ジャルックス・ワイン・アワード優勝
第4回キュヴェ・ルイーズ・ソムリエコンテスト準優勝
■An Di(アンディ)
〒150-0001
東京都渋谷区神宮前3-42-12 1F
【火~金】
17:00~ (L.O. 21:00)
【土・日】
12:00~ (L.O. 13:30)
18:00~ (L.O. 21:00)
※月曜定休
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