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【ひしほがたり】第六話:料理と器の関係 ~最高の一皿~

 
―今回はジャンルの垣根を越えて普段から親交のあるお二人によるリモート対談です。料理と器は、互いにとってなくてはならない存在ですよね。日本料理人である荻野さんにとって器とはどのような存在でしょうか?
 
荻野様:食材や盛り付けで、繊細な季節の移ろいを表現するのが伝統的な日本料理であり、器はその世界感を支え、引き立てる“舞台”です。そのため、器を選ぶ際にはメニューに最適なサイズや質感を見極めることを意識しています。一方で、素敵な器に出会うと、器が持つ魅力からメニューのインスピレーションが湧くことも。それこそ、山口さんの作品に触れると創作意欲をかきたてられるというか、同じつくり手として刺激を受けるというか…。“好きな器”という言葉では表しきれない存在ですね。
 
山口様:それは嬉しいですね。感性を信じてつくった器が、いま料理界で注目を集める荻野さんの逸品につながっているとは光栄です。
 

 
―荻野さんも一目置く山口さんの器ですが、制作する際にはどのようなことにこだわっているのでしょうか。
 
山口様:何気ない自然風景やまちに佇む建築物など、日常の中から得られる着想を大事にしています。例えば、今回の対談には沖縄からリモートで参加していますが、美ら海を眺めて「この海の青色っていいな」と思う。そうしたら、美ら海の透き通った青色を再現した器をつくる。自然体で過ごす人間・山口真人の心に響いた感情を、陶芸家として作品に投影しています。
 
荻野様:さすが山口さん、天才肌らしい答えですね。実は私も日常をヒントにすることが多くて、季節の移ろいを感じると「いまの時期にはこんなメニューが食べたいな」と、自身の欲求にゆだねてメニュー開発を行うこともあります。
 
山口様:自分がつくった器に盛られた料理を見て「こんな風に器を使うのか」と毎回感動するんです。器としての完成は、ひとつのゴールに過ぎない。料理と器は、ふたつでひとつであると実感する瞬間ですね。
 

 
―今回、荻野様のために特別に織部焼をつくっていただきましたが、どんな思いを込めて制作されたのでしょうか?
 
山口様:冬に重宝されることが多い織部焼を、あえて夏でも使えるような爽やかな色合いでつくりました。器全体にあしらった濃淡のある青緑色は、以前訪れたタイのアンダマン海の色を再現。伝統的な織部焼を土台に、新しさを感じられる器に仕上げることができました。
 
荻野様:いただいた器は、私が知っている織部焼ではないんです。型破りだけど、織部焼ならではの魅力がしっかりと息づく一作。「夏でも使える」という言葉どおり、釉薬(ゆうやく)のかかり方が涼やかさを演出していますね。
 
山口様:喜んでもらえてよかった。器はいくつかお送りしましたが、どれが一番気に入りましたか?
 
荻野様:どれも力強くダイナミックですが、ひときわトゲトゲとしたフォルムが目を引く、勢いを感じたこの器を選びました。
 
山口様:やっぱり(笑)。荻野さんなら、それを選ぶと思いました。
 

 
―コロナウイルスの影響を受けて世の中の価値観が変化しているいま、お二人は今後の展望についてどうお考えですか?
 
山口様:情勢が変化したことはいままでの作陶活動を見つめなおすきっかけになり、一層芸術性を極めて、新しいものづくりに取り組んでいこうと思っています。そのひとつとして、芸術的な作品に馴染みのない方にも、魅力を感じてもらえるような器をつくりたい。自分が見て、聞いて、触れたものを作品に取り入れ、より多くの人に響く作品を生み出していきたいです。
 
荻野様:山口さんの挑戦し続ける姿勢は共感しますし、自分が手がけるものをたくさんの人に知ってもらいたいという気持ちは同じです。未曾有の事態で外食そのものの価値が変わりつつあるなか、料理人としてどう在るべきか迷うこともあります。ただ、自分の譲れない部分はきちんと持ち続けていきたい。その信念が花開き、いつの日か『赤坂 おぎ乃だからこそ堪能できる食体験』として広く認知されるよう精進していきます。
 

 
山口様:私も荻野さんをはじめ、料理人の皆さんの熱い想いが込められた美食を際立たせる器をつくらねばと気合いが入りました。これからもお互いに切磋琢磨しながら頑張りましょう!
 
 
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【荻野 聡士氏プロフィール】
赤坂 おぎ乃
主人
 

 
1987年生まれ、東京都出身。
高校卒業後、ミシュラン三ツ星の京料理店にて修業。
東京・銀座に移り、同じく三ツ星の日本料理店にて5年間修業したのち、姉妹店に料理長として迎えられる。
2020年3月、東京・赤坂に「赤坂 おぎ乃」をオープン。
 
主な受賞歴
RED U-35 2017 ブロンズエッグ
RED U-35 2019 ゴールドエッグ
 
■赤坂 おぎ乃
 

 
〒107-0052
東京都港区赤坂6-3-13
17:30~20:30、20:30~23:00(2部制)
※日曜定休
https://www.facebook.com/akasak.ogino/
 
 
【山口 真人氏プロフィール】
西山窯
六代目
 

 
1978年生まれ、愛知県出身。
西山窯五代目・山口正文氏の次男として愛知県瀬戸市に生まれる。
2000年から喜多窯にて修行を積み、2004年に独立、
現在は瀬戸市のアトリエを拠点に、全国各地で個展・グループ展を開催している。
 
主な受賞歴
2007年 日本伝統工芸展入選、東海伝統工芸展入選、愛知県文連美術展入選、瀬戸市美術展入選
2008年 朝日陶芸展入選、瀬戸市美術展市長賞
2009年 東海伝統工芸展入選
 
■西山窯
 

 
〒489-0028
愛知県瀬戸市西窯町137
10:00~17:00
※土曜、日曜定休
https://www.instagram.com/makoto___yamaguchi/