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注目店のキラーメニュー はっこく

 
「はっこく」は2018年2月にオープンし、今や予約の取れない人気店。店主の佐藤博之さんは、江戸前鮨の伝統を継承しつつ、自身の感性に身を委ねた大胆なアイデアで注目を集めています。
 

 
とっておきの旨さで幕開け
その心意気に人は魅了される

 
はっこくのメニューは、鮨30貫コースのみ。その幕開けを飾るのが「突先」の手巻きです。突先とは、マグロの頭の付け根部分。100キロのマグロからわずか1.5キロほどしかとれない希少部位で、マグロの旨味や香りを凝縮したような濃厚な味わいと、ねっとりとした口当たりが特長です。この突先を包むのは、江戸前鮨の伝統として知られる、赤酢を使った「赤しゃり」。一般的に使われている白酢よりも香りが強い赤酢は、うま味の強い突先との相性が良く、互いの味を引き立て合います。丁寧にほぐした突先と赤酢のしゃりを香ばしい海苔で包めば、一品目から食べる人の心をつかむ贅沢な味わいの誕生です。
 

 
メニュー開発のきっかけは、8年ほど前にかけられた“ある一言”でした。「見習い時代からお世話になっていたマグロ仲卸業者さんに、『すじが強くて使いづらいけど、ものすごくおいしい部位がある』と突先を教えていただきました。食べてみると、たしかにうまい。このおいしさをお客様にも味わってもらうために試行錯誤を重ねて、手巻きのスタイルにたどり着きました」。その仕上がりは「うちの鮨の中でもトップクラスにおいしい」と佐藤さんが太鼓判を押すほど。キラーメニューをコースの1品目に置く大胆さからも、あとに続く鮨のフルコースへの自信が垣間見えます。
 

 
大胆さと繊細さが驚きを生む、
鮨30貫の物語

 
30貫コースの中盤には、5貫連続で「マグロの握り」が提供されます。赤身・部位違いの中トロ2貫・大トロ・づけと、どれも個性ある秀逸な味わいで、立て続けに王道のネタが差し出される光景は、突先にも負けないインパクトがあります。
 

 
「やっぱり、鮨といったらマグロだと思うんです。自分がお客様だったら、おいしいものが5回も連続で出てきたら、それはもう嬉しいなと思って」と笑顔を浮かべる佐藤さん。鮨職人としての高みを目指すなかでも、お客様目線を忘れない“心構え”が、繁盛店としての人気を支えています。「お客様に『ぜひ食べてほしい!』と自信をもって言える鮨のイメージを形にしてくれるのが『ヤマサしょうゆ』です。修業時代から慣れ親しんだ味であり、良い意味で主張しないバランスのとれた風味が、王道の江戸前鮨に合います」。
 

 
そんなお客様に寄り添う精神は、コースのいたるところに行きわたっています。「クレソンとケールのサラダ」をはじめとした合間に提供される野菜メニューは、ヤマサしょうゆを効かせた手作りの胡麻ドレッシングを合わせるなど、細やかな手仕事がほどこされた逸品ぞろい。妥協のない名脇役たちは、素材そのものの風味を味わえると女性層からも好評です。
 

 
そして、コースを締めくくる「玉」にもひと工夫。表面をキャラメリゼすることでパリッとした食感が楽しめる玉は、クリームブリュレという表現がぴったりです。「基本はあくまでも親方から教わった伝統的な玉子焼き。それを『鮨屋のデザート』という解釈をしてみた時に、同じ卵を使ったプリンが思い浮かんだんです」。佐藤さんの閃きと遊び心によって生み出された玉の優しい甘さと楽しい食感に、お客様は思わず顔をほころばせます。
 

 
人、食材をつなぐ“縁”を大事に
鮨の未来を描いていく

 
鮨職人としての信念と独創的なアイデアで、はっこく独自のスタイルを確立させた佐藤さん。日本の鮨界をけん引する一人として、今後の展望について語ってくれました。「これからも“縁”を大事にしていきたいですね。今の私があるのは、鮨職人として鍛えてくださった親方衆、山海の良質な食材を提供してくださる生産者・仲卸業者の皆さんと出会えたからこそ。感謝の気持ちを忘れずに、自分らしい鮨の道を極めていきます」。
 

 
また、今後は後進の育成にも一層励んでいくと話す佐藤さん。若手に説いているのは、“小さなことの積み重ね”です。「毎日市場に行き、目利きのプロである仲卸業者さんと顔を合わせて対話することが大切です。信頼関係を築けるのはもちろん、食の世界の最前線で活躍する人たちの思いやこだわりを『見て、感じて、触れる』ことで、自分自身もプロとして成長できると思います」と、佐藤さんは歩んできた道のりを振り返ります。
はっこくでは、今日も次世代の匠を目指す若手が、佐藤さんの技と心を学んでいます。近い将来、日本各地、そして世界に飛び立った“はっこくイズム”が、鮨の新たなスタンダードになっているのかもしれません。
 
 
赤酢と海苔の香りとともに
マグロのうまみを存分に味わう

 
メニュー名:「突先」の手巻き
 
知る人ぞ知るマグロの希少部位・突先を使用した手巻きずし。「お腹が空いている時に、一番おいしいものを食べてもらいたい」という佐藤さんの思いは、食通たちの心においしさとともに深く刻まれています。
 
①突先の塊から身をそぎ、丁寧にすじを取り除きます。
②すじを除いた身をたたき、ほぐします。
③海苔の上に赤酢のしゃりを乗せ、その上に身を乗せます。
④醤油をひと塗りし、巻きすを使って巻けば完成です。
 

 
 
【店舗紹介】
はっこく
 

 
〒104-0061
東京都中央区銀座6-7-6 ラペビル3F
〔月~土〕17:00~22:00(最終入店20:30)
※定休日は日曜・祝日
https://www.instagram.com/hakkoku.jp/
 
【佐藤博之氏プロフィール】
 

 
1978年生まれ。東京都出身。渋谷「秋月」にて6年間修業を積み、2013年に銀座「鮨とかみ」の初代大将に就任。若くして江戸前鮨の真髄を体現し「ミシュラン東京2014」で1つ星を獲得。2017年に店を後進に譲り、2018年2月、満を持して「はっこく」をオープン。