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築地「鈴富」社長スペシャルインタビュー

食文化の繋ぎ手・伝え手として

天然マグロ専門で有名な、築地市場仲卸の「鈴富」さん。今回は社長の鈴木勉さんに仕事への使命から、漁に出た時のびっくりエピソード、そしてマグロと相性のよいしょうゆについてお話しをうかがいました!

天然マグロを専門とする、築地市場仲卸の「鈴富」。創業1963年より、天然鮮魚にこだわり続け“安心安全な旬の味“をモットーにお客様へ新鮮な魚をお届けしています。今回は社長の鈴木勉さんに仲卸としての使命、天然物にこだわる理由と想い、またマグロと相性のよいしょうゆについてお話しをうかがいました。

 我々のやっている「仲卸業」は、お客様に品質と価格のバランスを取っていかに優良なものを提供できるかというところがビジネスの本質です。今、養殖のマグロは、この5年程で圧倒的にシェアを伸ばしてきて、全体の半分位を占めるようになり、多くが市場外で流通しています。みなさんよくご存じの、回転寿司で出している本マグロの中トロは、ほとんどが養殖です。

 でも、私はやはり天然のマグロに極力こだわりたいと思っているんですね。資源の問題などでマグロの漁獲規制もあり、もしかして将来的には天然マグロが食べられなくなるという可能性も無い訳ではありません。その時は養殖マグロを食べることにならざるを得ないんですが、やはり天然のマグロが商業ベースにのる限りは、そこにこだわり続けたいと思っています。マグロに限らず、天然物ならではの魚の刺身の繊細な味、日本の食文化をこれから先も繋いでいかなきゃいけないと感じています。

 実は私、子供の頃は魚が嫌いだったんですよ(笑)父親(先代「鈴富」社長)がこの仕事だったもので、晩ご飯のおかずっていうと魚が多かったんですが、「え~っ、また魚なの?たまには牛肉が食べたいよ!」とか言ってましたね。大人になったら魚屋にはなりたくないって思ってたんですが、二十歳過ぎた位ですかね、初めて「魚っておいしいな!」って思って、今に至っています。

 今の子供たちは、幼い頃から養殖の鯛やヒラメ、サーモンで育ってきています。特にサーモンはとても人気がありますね。以前は回転寿司のベスト3というとトップはマグロの赤身だったんですけど、今はマグロを抑えてサーモンがトップ。そういう時代になってきています。“味覚の原体験”という言葉もありますが、やはり幼い頃からそういった味で育ってきてしまっていると、養殖の魚の方がおいしく感じるんですね。天然の方は固くて青臭い、ということを言うらしいんですよ(苦笑)養殖の方が身がやわらかくて、味も配合飼料で育っていますから、あまり味が魚魚(さかなさかな)していないんですよね。そういうのが、だんだんおいしいと言われるようになっている。でもね、そうなるとさびしいなと思うんですよ。やはり天然の魚のおいしさをなんとか伝えていきたいなと思っています。

 「鈴富」ではマグロをメインに扱っていますが、マグロには変なヒエラルキーがあるんです。一番頂点が本マグロ、そこからインドマグロ、メバチマグロ、キハダマグロ、ビンチョウマグロ、だから本マグロが一番おいしい!みたいになっている。そういう“錯覚”が起きているせいで、回転寿司で「生のマグロあります」とかあると、実は本マグロの養殖であってもお客様の反応は「おぉ~!」となる。

 本来マグロも回遊魚ですから、やはり旬があって、それぞれの種の旬が一番おいしいんですよね。例えば、メバチマグロで言えば9月~11月に東沖(宮城~岩手の太平洋からミッドウェーまでの間の近辺)でとれるメバチマグロが僕は非常においしいと思います。キハダも、我々関東の人間はキハダをあまり食べ付け無いし敬遠されがちですが、旬のキハダってホントおいしいですしね。逆に、本マグロというと大間が有名ですが、大間が一番おいしいのはあの辺にいる肝が太くなった頃のスルメイカを食べているマグロがおいしいんです。だからそういう時期の大間のマグロじゃなくて、今頃(6月)の時期に大間へ行って「大間でマグロ食べて感激した」っていうのは本来の旬の味を知らない訳ですよね。

 旬の時期っていうのは量も獲れる訳ですから、ある程度価格的にもこなれる。ですからそういったものを食べるということが、資源の有効活用にも繋がるんだと思います。旬であれば、本当においしいもの無理せず食べられる。やはり我々は自然に生かされている訳ですから、その自然のサイクルの中で、その時その時のおいしい天然物を上手く伝えていくことが、我々の使命なのかなと思っていますし、それがうちの会社の理念にもなっています。

 それとやはり獲ってきてくれる漁師の方々が大切。日本人の漁師ってすごいなって思うのは「この時期、この場所に行くと旬のこれが獲れる」っていうことを、経験値で熟知している訳です。魚を獲ってきて、しかも生で食べることを想定して、商品価値を落とさないようにする。それは一本釣りなどの獲り方であったり、獲った後の処理も含めてとても繊細な仕事です。ですから、そういう人たちの技術の伝承もしていかないといけないなと。獲ってくる人たちがいなくなったら、我々いくら偉そうなこと言ったって、おいしい魚は食べられないですからね。いわゆるトレサビリティとよく言われますけど、獲ってきた人たちの仕事を、食べ手の人たちに伝える。こういう価値があるからこの魚はこの値段がするんだよっていうことをしっかりと伝える、我々の仕事はそういうことだと思っています。

 今から15年位前、山口県の見島で地元の方と一緒に漁へでる機会があったんですが、彼らは1人しか乗れないような小舟で行くんですよ。小舟で外洋に出ますとね、もう木の葉が波間を漂ってるような感じで(笑)決して海が荒れてる日とかじゃなかったんですけどかなり揺れて、漁が終わって戻る時はホッとしましたね。
「すごいな・・・!この人たちはこういうところに1人で行ってるのか!!」とその体験が衝撃的で。漁師の人たちがしっかりと生計を立て、そしてこの人たちの後継者をきちんと育てることがこれからは大切だと強く感じました。

 天然のマグロはもちろんそのままで食べてもおいしいですけど、やはりそれだけだとちょっと物足りない。そこにしょうゆをつけることで、よりそのマグロのおいしさを引き立てると言うかおいしくなりますよね。

 マグロも旬によってそれぞれおいしさがあるとお話ししましたが、例えばキハダなんかは身があっさりしているから、ちょっとしっかりめのしょうゆが合う。逆に本マグロは繊細な味わいなので、しょうゆもそれにあわせて香りが引き立つようなものが合うと思います。
「鈴富」のマグロ、そしてヤマサさんの「鮮度の一滴」、もちろん物は違いますが、どちらも”鮮度”を大切にしているということで、やはりせっかく鮮度の良いマグロには鮮度の良いしょうゆを使って楽しんで欲しいですね。

 鮮度についていえば、僕はやはり「香り」だと思うんです。マグロも鮮度が落ちてくると口の中に入れた時の香りがよく無くて、おいしさを感じられない。しょうゆやコーヒーなんかも同じですよね。「鈴富」のマグロも、解凍時のドリップ(液体)が流れ出るのを最小に抑える“プロトン凍結”という技術を使っています。通常の冷凍が温度の低下だけで凍らせるのに対して、プロトン凍結は磁石の力・電磁波・冷風、という3つの力を使い凍らせます。旬の鮮度をほとんど損なう事なく、マグロの香りと味わいを楽しんでいただけます。

 後、しょうゆでいえば、最近注目しているのがヤマサさんの「鮮度の一滴減塩しょうゆ」。
うちが直営でやっている寿司店「すし富」ではマグロをしょうゆで漬けにしてお出ししたりしますが、やはりどうしても塩分が高くなってきてしまう。
今、健康のため塩分を控えている方も多いですが、そういった方のためにも減塩は良いのではと思います。ゆくゆくは各テーブルに置いているしょうゆ差しのしょうゆも減塩にしてもいいかなと考えています。そういった取り組みをしている店は、まだあまり聞きませんし。これからも、日本の漁師の方々が一生懸命に獲ったマグロをその技と思いと共にお客様へお届けしていきたいと思います。