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【匠の皿 vol.30】「深谷葱のフラン イノシシのコンソメ 柚子のエキュームを添えて」 Wine Restaurant Le Conte エグゼクティブシェフ 玉水 正人 氏

 
今回のテーマとしてまず考えたのが、日本人が食べた時に「懐かしい」と感じるフランス料理でした。最初に決めたのが、日本の茶わん蒸しに似たフランス料理のフランを作ること。その中に日本料理で使う出汁と醤油を忍ばせようと思い立ちました。実はフランスで修行していた時、シェフから「なぜ日本の出汁や調味料を使おうとしないんだ? 使ったほうがいい」という指摘を受けたことがあったんです。自分の中に、フランス料理なのだからフランスの出汁を使わなければという無意識の思い込みがあったのでしょう。でも、そんな決まり事はないんですよね。それからは昆布などの日本の出汁も、醤油も、料理に取り入れるようになりました。
 

 
最初に深谷葱のフランを作ります。イノシシのツミレや銀杏などの具材以外の材料をハンドブレンダーで滑らかになるまで攪拌し、濾してから具材を入れた器に流し込んで、20~25分、弱火で蒸します。蒸す時は器に蓋をするのではなくラップを使うと水滴が落ちにくくなります。このフランには、フランス料理の鶏の出汁であるフォンドヴォライユと、昆布出汁を合わせて加えました。昆布出汁によって味わいが重たくなり過ぎず、日本人にも馴染みやすくなります。
 

 
次に、フォンドヴォライユにイノシシのミンチや深谷葱の葉、セロリ、ハーブ、スパイスなどを加えて仕上げたイノシシのコンソメで、餡を作ります。スライスしたニンニクを中火で色づくまで空煎りした鍋に、「生引たまり」を入れて焦がし醤油にし、すぐにイノシシのコンソメを注いで沸騰させます。醤油は焦がし過ぎないように注意しましょう。水溶きコーンスターチでとろみをつけて、味が薄ければ「生引たまり」を足して調整してください。最後にシノワ(こし器)で濾します。
 

 
焦がし醤油の香りは、香ばしさを加えるのと同時にイノシシの臭み消しになります。「生引たまり」は、フランの具材であるイノシシのツミレにも使いました。なぜ「生引たまり」を選んだかというと、自分が三重県出身で子どもの頃からたまり醤油に親しみがあったことと、「生引たまり」は甘味と旨味を兼ね備えているため少量でも味が決まり、そのエッセンスが活かせるからです。
 

 
最後に柚子のエキュームに取りかかります。鍋に、フォンドヴォライユに少量の昆布出汁を足したもの、牛乳、生クリーム、柚子の皮を入れて火にかけます。沸騰したら火を止め、蓋をして10分蒸らしましょう。白味噌と塩で味を調え、乳化剤のシュクロ エミュルを加えて攪拌してから濾します。エキュームに色をつけたくなかったのと、コンソメ餡の「生引たまり」と風味がかぶらないようにするため、赤味噌ではなく白味噌を使いました。
 

 
フランの上にコンソメ餡を静かに流し入れ、約60度まで温めてハンドブレンダーで攪拌したエキュームの泡の部分を、上からふんわりとかけます。最後に刻んだシブレットと花穂紫蘇、削った柚子の皮を彩りよく散りばめて完成です。
 

 
今回のメニューの大きなポイントになったのが、「和と洋のバランス」です。料理の中の1つのパーツに日本の出汁と醤油を一緒に使うことで、風味や印象が日本料理に寄り過ぎてしまうのは避けたいと考えました。そのため、昆布出汁はフランの生地やエキューム、醤油はコンソメ餡やツミレに分けて使用し、口の中でそれぞれの味が混じり合った瞬間に懐かしさがふわっと立ちのぼるような、そんなフランス料理を目指しました。
 

 
また、私の料理の特徴である「香り」にもこだわっています。深谷葱やイノシシなどの食材の香りに醤油や白味噌の香りをまとわせ、生姜や柚子をアクセントにしました。ハーブのシブレットを使ったのは、和と洋の香りのバランスを考えてのことです。
 

 
このような、香りがよく、日本料理のエッセンスを加えて従来よりも軽やかに仕立てたフランス料理は、体の負担にならず、心身の健康にも美容にもよいと私は考えています。ソムリエとして、この一品は爽やかでフルーティーな国産の白ワインと一緒に楽しんでいただきたいですね。
 
「深谷葱のフラン イノシシのコンソメ 柚子のエキュームを添えて」(前編)のレシピはこちら
「深谷葱のフラン イノシシのコンソメ 柚子のエキュームを添えて」(後編)のレシピはこちら