English

【匠の皿 vol.9】「夏野菜せいろ」 株式会社更科堀井 代表取締役社長 堀井 良教 氏

 
気温が上がる夏は食欲が減退しがちですが、そんな暑い日におすすめしたいのが「蕎麦」。今回開発した「夏野菜せいろ」は、たんぱく質が豊富な蕎麦と多彩な夏野菜が調和する、おいしさと栄養を両立した一品です。
 

 
夏野菜の色味が映える現代的なメニューですが、おいしさの根幹を形づくるのは「蕎麦」と「もりつゆ」です。その要のひとつ、もりつゆのベースとなるかえしは、江戸前料理に欠かせない基本調味料。かえしは3倍希釈でもりつゆになりますが、その他にも5倍希釈で天つゆ、9倍希釈でかけつゆと汎用性が高く、日本酒とみりんを混ぜると鳥の鍬焼きやブリの照り焼きのタレにも応用できます。かえしづくりのポイントは、1週間ほど寝かせること。甜菜糖がしっかりと溶けきり、甘味が立ちすぎないまろやかでコクのあるかえしに仕上がります。
 

 
今回のもりつゆは、本枯節の旨味が効いた味わいを目指しました。そこで活躍したのが、ヤマサ特選しょうゆです。当店では、辛口の蕎麦つゆを作る際に重宝しており、醤油らしい旨味で存在感を示しつつ、その後味はすっきりしているので蕎麦つゆの味がだれない。かえしの一種で、醤油の風味が一層際立つ「生がえし」にもぴったりで、江戸前らしいキリッとした味わいになる点が気に入っています。
 

 
メニューの主役である蕎麦は、蕎麦本来の香りを楽しめる生の二八蕎麦。おいしい蕎麦は、芯がなくなるまでしっかり茹で上げ、冷水で丹念に洗い締めています。醍醐味である“コシ”は、蕎麦そのものに備わっているわけではなく、しっかりと茹で、しっかりと締めることで生まれる食感です。この“コシ”という言葉、蕎麦業界において「ピンと角が立つ」という表現で受け継がれています。昔から日本の人々を魅了してきた食感を生み出すには、「ピンと角を立たせる」と意識して調理することが大切なのです。
 

 
近年は訪日観光客が増え、日本料理に対する世界からの関心は高まっています。だからこそ、蕎麦の伝統を守りつつ、グローバルな視点で新しい可能性を模索していく必要性を感じています。そこで、今回のオリジナルメニューの隠し味に「バルサミコ酢」を取り入れました。もりつゆに酸味を効かせるのは未知の領域でしたが、夏らしい爽やかな風味がアクセントになり、今までにないおいしさに手応えを感じています。食べる時は、すすることをお忘れなく。蕎麦の香りはすすることで口の中に広がります。蕎麦を存分に味わうために先人たちが編み出した、非常に理にかなった食べ方です。この夏はぜひ豪快にすする粋な食べ方で、和と洋のマリアージュをお楽しみください。
 
「夏野菜せいろ」のレシピはこちら