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  • これも日本独自「巻きす」

    食の道具に蘊蓄あり

    東京合羽橋商店街振興組合副理事長 奥田晃一

    makisu「巻きす」もまた、日本にしかない食の道具のひとつです。その種類には、海苔巻きの細巻き用、太巻き用、鬼すだれがあります。もりそばの下に敷くすのこも、ほぼ同じ形状ですね。あまりなじみのない鬼すだれ(鬼す)は、太めの竹を一本一本三角に加工した巻きすで、伊達巻きに形をつけるのに使います。ふつうの巻きすは水分を吸いにくい竹の皮の方を内側にして巻きますが、鬼すだけは、形を付けるために皮でない方を内側にして使います。近年、節分に恵方巻きを食べる習慣が全国へ広がり、かっぱ橋でも、節分前に巻きすを買い求める人が増えました。

     巻きすの起源については、詳しくわかっていません。平安時代には宮中などで部屋の間仕切りに使う「御簾(すだれ)」がありました。その小型版ともいえる巻きすが誕生したのは、海苔巻きの登場と重なるのではないか、と推測されます。古くは生食だった海苔が、乾燥させて食材を包むものとして使われるようになるのは、江戸時代の後半と言われています。「鉄火巻き」の名前の由来に、鉄火場(賭場のこと)で博打をしながら、手を汚さずにサッと食べられるものとして作られたという説があり、寿司が発展した江戸生まれの道具ではないかと思えます。けれども、実際に巻きすが使われていたのかは定かではありません。もしかしたら宮中に近く、恵方巻きが生まれた関西が発祥の地なのかもしれません。

     ちなみに、節分に食べる太巻きが「恵方巻き」と呼ばれるようになったのは最近のことで、大阪では「丸かぶり寿司」の呼び名の方が自然のようです。

     東京にも、すだれや巻きすを手作りで制作する職人の工房があり、都の伝統工芸として認定されています。巻きす作りは、冬場に竹を刈り取り、乾燥させ、一本一本の形を整えて並べ、糸で編んで仕上げます。しかし時代の流れとともに、竹製品に関わらず多くの職人が廃業し、転業している現実があります。昔ながらの手作りの巻きすは、いまや大変貴重なものとなっています。
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    奥田晃一(おくだこういち)
    東京合羽橋商店街振興組合副理事長。かっぱ橋道具街で昭和8年から料理道具店を営むオクダ商店三代目。漆器、竹製、木製の道具を広く扱い、料理のプロからの信頼も厚い。

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